『隈研吾建築図鑑』(2021年5月11日発刊)では、茨城県境(さかい)町の隈建築群を巡ってリポートしているが、その本には間に合わなかった新施設「HOSHIIMONO100Café」が5月27日にオープンした。以下、2020年9月30日に本サイトで公開した記事の後半に、新施設の情報を青字で加えた。(ここまで2021年5月28日追記)
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「隈研吾氏の建築の集積地」と聞いたら、思い浮かぶのは高知県の梼原(ゆすはら)町だろうか。あるいは栃木県の那須周辺だろうか。それらの背中を猛追し、追い抜かんとしているのが茨城県境町である。まずは竣工年順に外観を全部見てみよう。
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車があれば2時間くらいで見て回れる。場所を調べるのに時間がかかるので(どれも新しいのでカーナビに入っていない!)、回る人はこの記事を参考にしてほしい。
スタート地点として目印になるのは、既存の「道の駅さかい」の北側に隣接して立つ「さかい河岸レストラン茶蔵」だ。東京方面から行くと、利根川に架かる境大橋を渡った左手にある。スノコのような板が、外壁上部にパラパラと並ぶ。
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茨城県猿島郡境町1341-1
この施設は2019年4月にオープンした第2弾で、第1弾は道の駅にさかいの奥まった部分にある「さかいサンド」。隈建築のなかでも最小の部類だが、木板の立体的な装飾はいかにも隈氏。2年前の2018年10月にオープンした。
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そこから車で5分ほどの住宅街に、今年8月26日、境町地場産品研究開発施設「S-Lab」(エスラボ、下の写真)と、美術館「S-gallery」が同時オープンした。2棟はL字にとなり合う。共通モチーフはくさびのような断面の庇だ。
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「S-gallery」(上の写真)は画家・粛粲寶(しゅくさんぽう、1902~1994年)の作品を展示している。文人画調の独特の画風の画家で、人生最後の地として境町を選んだ。入館料330円
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茨城県猿島郡境町1466-2(S-Lab)、1455-1(S-gallery)
9月16日にオープンしたばかりなのが「モンテネグロ会館」。83年前に住民が建てたアルゼンチンゆかりの木造集会所「モンテネグロ会館」を境町が建て替えた。この地にあった旧会館の木材を分かりやすく再利用している。
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1853年に米国のペリー提督率いる艦隊が浦賀に来航した際、幕府で文書担当だった境町出身の関宿藩士、野本作次郎氏がアルゼンチン人船員と交流したことで友好関係が始まったという。旧会館は1937年、船員の孫のモンテネグロ・同国臨時代理公使から資金援助を受けて建てられた。集会所として活用されていたが老朽化したため、隈氏の設計で建て替えた。
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既存建物の木材を軒下に活用しているのも面白いが、既存の樹木を残すために、屋根の一部がえぐれていることにも注目。町民によると「残してほしいと言ったのではなく、設計の先生が『この木は残すべき』とおっしゃった」という。
茨城県猿島郡境町大字上小橋446-1
どれも、相当ローコストであったと思われるが、それぞれに記憶に残るポイントをつくるのがさすが隈氏。引き受けるからには必ず爪跡を残す。そして、行く先々で「偉い先生だと思っていたら気さくな人だった」と、人間としての爪跡も残す。
町長が気になる!
この5件に加え、来年(2021年)4月には、「S-Lab」と「S-gallery」のほど近くに、隈氏の設計による「干しいもカフェ」ができる。
<青字部分は追加情報>
2021年5月27日、境町の隈建築第6弾となる「HOSHIIMONO100Café(ほしいものひゃっカフェ)」がオープンした。境町が「S-ブランド」という名称で建設した木造2階建ての建物で、テナントとして干しいも専門店である「ほしいもの百貨」(本社:境町)が契約。干しいもを販売するカフェを運営する。
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茨城県は干しいもの特産地で、外壁には干しいもの繊維をイメージしたスギ材のスクリーンを設置した。室内の階段にも繊維風の落下防止柵がある。開業日には設計者の隈氏も駆けつけたという。
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人口約2万4000人の小さな町になぜこんなに隈建築が? 詳細は不明だが、境町長のプロフィルを調べると建築学科出身だった。
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橋本正裕(はしもとまさひろ)・境町長
1975年(昭和50年)12月生まれ(現在44歳)
1998年 芝浦工業大学工学部建築工学科卒業
1999~2003年 境町役場
2003年 27歳で境町議会議員当選
2014年 第16代境町長に当選
2018年 第17代境町長に再選(現在2期目)
橋本町長の建築好きが気になる…。いずれBUNGA NETの「建築の愛し方」でインタビューをお願いしてみたい。(宮沢洋)
参考:『隈研吾建築図鑑』
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