立山アルペン建築(前編):吉阪隆正の「立山荘」を見た!山に架かる“二重の虹”はなんと増築

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 建築好きの間で「話したくなる建築」の最上位は、「実物を見た人が少ない建築」だ。「うらやましい!」は最高の褒め言葉である。筆者(宮沢)が脱サラした直後にブラジルに行ったのはそういう理由からだったが(こちらの記事など)、国内にも行きにくい建築はたくさんある。今回、富山出張にからめて、初めて「立山黒部アルペンルート」を上ってきた。まずは、吉阪隆正(1917~1980年)の設計で1964年に完成した「県立立山荘(現・国民宿舎 展望立山荘)をリポートする。

(写真:宮沢洋)

 なぜ行きづらいかというと、立山黒部アルペンルートはレンタカーが入れないからである。距離的には富山でレンタカーを借りて2時間くらいで着きそうだが、山の傾斜がとんでもない。加えて、ラムサール条約に登録された湿地帯「立山弥陀ヶ原・大日平」の間近を通るため、定期バスと観光バスのみが通れる道となっている。

ケーブルカーの立山駅
ケーブルカーから富山地方鉄道の立山駅を見下ろす

 まず、富山駅から富山地方鉄道に1時間弱乗り、立山駅(標高約500m)に到着。駅前でケーブルカーに乗り換える。ケーブルカーに7分乗ると「美女平」(標高約1000m)。そこでようやくバスに乗る。緑の中をぐねぐねと上り、45分で「弥陀ヶ原」(みだがはら、標高約2000m)に到着。バス亭の目の前に立山荘はある。

バスしか通れない立山黒部アルペンルート

 この建築、吉阪隆正の設計であることは間違いないのだが、図書館で調べても、ほとんど当時の資料が見当たらない。今年、東京都現代美術館で開催された「吉阪隆正展」(リポートはこちら)でも、プロジェクト名がちらっと出ている程度だった。なので、今回は写真を中心に、私の印象と、案内してくれた支配人の話でリポートする。(竣工時の詳細をご存じの方はぜひ教えていただきたい)

 虹のような曲面屋根と、コルビュジエ風の不規則な窓割り。予備知識がなくても、「建築家の作品」と分かる。

西側からの見上げ

 おお、この玄関庇は、「大学セミナーハウス」にそっくり。

 玄関扉には、立山連邦の金属装飾。

柱のモザイクタイルは「春夏秋冬」

 内部の目玉は1階西側の食堂。玄関から食堂へと4本並ぶ柱は、カラフルなモザイクタイル張り。これは当初からのもので、支配人によると「春夏秋冬」がテーマという。

たぶん、これが「夏」
たぶん「春」
フロント脇にある柱はたぶん「冬」
階段の手すりがいかにも吉阪隆正


 風呂好きの私は、地下1階の浴室の景色の良さに感動。地下1階といっても、浴室は山裾側なので地上。内装は改装されているようだが、大きな開口部が当初からあったことは間違いない。この日は眼下に雲がかかってしまったが、晴天日には西没がばっちり見えるという。

 この日はここに泊まった。シングル洋室はこんな感じ。

“二重の虹”はその後の増築

 実は、この外観を見て私は、「コルビュジエ風の不規則な窓割りに加えて、曲線で壁面を分割するとはさすが吉阪隆正!」と思った。イメージは、山に架かる二重の虹か?

 ところが支配人の話を聞いてびっくり。元は西側の小さい曲線部分が屋根で、東側に大きな屋根を増築したのだという。数少ない資料の中に「1995年に増改築」という記載があったので、おそらく吉阪の没後に、弟子たちによって増築されたのだろう。その違和感のなさは、増築の好例として、本に載せたくなる。

 知らなかったが、この施設、ランチだけ食べることもできる。ランチを食べれば食堂が見られる。ここに寄ってから室堂に上ってもいいし、日帰りで富山に戻ることも可能だ。

 私は一泊して、翌朝、弥陀ヶ原の湿原を散歩。初めて自然のミズバショウを見た。

 次回はもう一度バスに乗り、さらに500m上の室堂ターミナル(標高2450m)を目指す。(宮沢洋)

次の記事→立山アルペン建築(後編):村田政真の「ホテル立山・室堂ターミナル」を見た! 木製扉は単なる雨戸にあらず