話題になっている「佐藤可士和展」を見に行った。東京・六本木の国立新美術館で2月3日から始まった、「日本を代表するクリエイティブディレクター、佐藤可士和の過去最大規模となる個展」との触れ込みの展覧会だ。さほど宣伝もしていないのに話題になるものには必ず理由があって、なるほど本展も見て損のない、いや、建築関係者は必ず見るべき展覧会だと思った。
見るべき理由の1つは、単純に元気がもらえること。クリエイターであれば、コロナ以降モヤモヤしていた気持ちがかなり解消される。「オレもやるぞ」と思えてくる。
佐藤氏のクリエイションはとにかくシンプルなのだ。導入部の「ADVERTISING AND BEYOND」ゾーンはこんな感じ。
有名なSMAPのキャンペーンビジュアル(上の写真)に象徴されるように、佐藤氏のデザインの多くは「色の構成」だけでできている。別の言い方をすると、アイデアの「ひとひねり」がない。
昨年11月に、日本デザインセンターが創業60年を機に企画した展覧会「VISUALIZE 60」をリポートしたときに、同社のデザインの特質として「ニヤッと笑える」「人の興味を引く茶目っ気がある」点を指摘した。(「大阪メトロもこの人!色部義昭氏監修の日本デザインセンター60周年展で「品の良さ」を考える」)
私も必ず「ひとひねり」を考えてしまうタイプなので、そっち方向のデザインに共感するのだが、佐藤可士和氏のデザインは全く違う。SMAPとこの色は何か関係があるのか? 何かあるのかもしれないが、そんなことは一瞬も考えさせない次元で心が躍る。こんなデザインはとても真似はできない。ジェラシーが沸く。ジェラシーは創造の源泉だ。
このゾーンには、佐藤氏が小学5年生で描いた作品も展示されている。
うまっ。今とテイストが変わらない…。これにもかなりジェラシー。
続く、「THE LOGO」のゾーンはもっと創造心が刺激される。佐藤氏が手掛けたロゴを巨大化して見せるのだ。これはまさに現代アート。
ロゴの設計図集も見入ってしまう。
誰もが知るロゴ群の中でも私が特に好きなのは、ツタヤのロゴ。何しろツタヤのカードは、財布の中でも断トツに探しやすい。
明治維新から100年以上、各時代のクリエイターがさまざまな図案を追求してきて、それでもまだこんなに単純で強い図案が生み出し得るということに勇気づけられる。
ここまでは楽しい展示だが、ここから先は少し心持ちが変わる。
続々と「空間の意匠登録」を取得
最後の「ICONIC BRANDING PROJECTS」ゾーンは、空間デザインの展示だ。ここは「撮影可」のマークがないので写真は掲載できない(みんばバンバン写真を撮っていたが…)。
特に建築関係者にとっては、考えさせる展示が多いだろう。個々の建築は好き嫌いがあると思う。私が「考えさせる」と思うのは、「意匠登録」についてだ。この展示を見るまで知らなかったのだが、2020年4月にオープンした「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」の建物デザイン、2020年6月に開業した「ユニクロ 原宿店」内「UT POP OUT」の内装デザインと、佐藤氏のプロデュースした施設で続々と意匠登録が認められているのだ。佐藤氏がデザインを監修した「くら寿司浅草ROX店」でも、意匠登録が認められた。「くら寿司」はこんなことになっていたのか。(写真を見たい人はこちら)
ここで意匠登録と言っているのは、2020年4月に施行された改正意匠法で認められた「建築物の意匠」の登録だ。佐藤氏は1年でこんなに意匠登録を取っていたのか…。
私は2007年、「日経アーキテクチュア」時代に佐藤氏をインタビューしたことがあって、そのとき佐藤氏はこんなことを話していた。
「最近はブランディングの仕事に、必ず“空間”が含まれる」「父が建築設計をやっているのでわかるのだが、設計者の多くは建築がすごく好きで、そのぶん善くも悪くも建築の世界に完結している」
(いずれも「答えは依頼の中にある、クリエイティブディレクター 佐藤可士和氏」から引用)
私も含め、建築好きは「意匠登録」というと、「クリエイティビティーが制限されるのでは」とマイナスに考えてしまう人が多いのではないか。しかし、佐藤氏にとって、「ブランディングの到達点」ともいえる「建築」の領域で意匠登録が認められるようになったことは、次なる飛躍のチャンスというところなのだろう。
元気がもらえて考えさせる、1700円でもお得な展覧会である。5月10日まで。必見。(宮沢洋)
公式サイトはこちら。