日曜コラム洋々亭56:「京都モダン建築祭」と「イケフェス大阪」が指し示す、今後の建築公開イベントの選択肢

Pocket

 硬いタイトルになってしまったが、難しい話ではない。秋の建築公開イベントに2つ行ってきました、どちらも面白いのでもっと広まらないかなーという報告兼願望である。

左は「京都モダン建築祭」のガイドブック、右は「イケフェス大阪」のガイドブックの中の「セッケイ・ロード」のページ’(写真・宮沢洋)

 1つは、「前半戦終了、後半戦へ」というタイミングの「京都モダン建築祭」。昨年が第1回で、今年2回目となる。公開エリアは昨年よりも拡大している。昨年、実行委員長で建築史家の笠原一人氏にインタビューしたので、イベントの立ち上げの経緯についてはそちらを読んでほしい。

 筆者(宮沢)は昨年行けず、今年初参戦。例えばこんなものを見た。

今年の日本建築学会賞作品賞を受賞した「郭巨山(かっきょやま)会所」。建築設計:魚谷繁礼建築研究所、構造設計:柳室純構造設計
施工:竹田工務店。こんな話題作を見られるなんて!
両側の建物が既存で、2棟をまたぐように増築した
高松伸氏の設計で1998年に完成した東本願寺視聴覚ホール(新参拝接待所)。普段でも見られるらしいが、こういう機会がなければ一生見ることがなかったかも
まるで京都のルーブル!

 前半戦の3日間(11月2〜4日)が終了し、後半戦は、11月11日(金)〜13日(土)だ。

10年目イケフェスも大盛況、日建大阪は新オフィスを公開

 もう1つのイベントは、建築公開の老舗「イケフェス大阪」。これは 10月28日(土)と29日(日)の2日間開催された。今年は10年記念。日本の建築公開イベントの草分けだ。

 既報のとおり、筆者は「セッケイ・ロード」という企画に協力している。

 今年は参加10社中、4社回るとオリジナルグッズがもらえるというので、半日で4社回った。これ↓がそのグッズ。

 そう、筆者が原画を描いたクリアファイルだ。なかなかいい仕上がり。実は筆者が4社回り終えた時点では、すでにグッズの配布が終わっていた。自力でゲットできずちょっと悲しいが、予想以上の方が設計事務所を回ってくれたのは何より。

 筆者が回った中では、日建設計大阪の新オフィス公開が、初めて目にするものばかりで新鮮だった。

「住友ビルディング(現:三井住友銀行大阪本店)を設計した住友本店臨時建築部を源流にもつ国内最大規模の建築設計事務所。慣れ親しんだ淀屋橋の西エリアから、本町(御堂筋沿い)に大阪オフィスを移転。アクティビティを高めるワークプレイスを目指して、様々な試みに挑戦中」(公式サイトより)

旧オフィスのキャビネットを植栽枡として再利用
組織設計事務所の設計スペースが見られるのは極めて珍しい
案内してくれた勝山太郎大阪代表と高畑貴良志氏

 筆者の原画展@大阪府立中之島図書館もこの2日間は大盛況だったらしい。イケフェス期間は終わったが、この原画展は11月17日(金)まで開催しているので、近くに行かれる方はぜひ。

“大阪スキーム”か“京都スキーム”か、2つの明確な方向性を示す

 京都モダン建築祭とイケフェス大阪は、似たイベントに見えて、事業スキームの根本が全く異なる。それは、これからこういうイベントをやりたいと考えている人に、「2つの方向性」を指し示していて良いヒントになると思う。

 違いは「参加費」だ。先輩格のイケフェス大阪は、基本的にどの建築を見ても無料だ。公式ガイドブックは990円だが、買わなくても個々の建築を見ることはできる。要予約(抽選)の少人数公開も無料だ。

 対して後発の京都モダン建築祭は、「パスポート」を購入することが見学の前提となる。パスポートには全期間と1DAY(日付指定)があり、こういう料金設定。

 パスポート(全期間)1DAYパス(日付指定)
一般オンライン決済4,000オンライン決済2,000
一般セブン-イレブン店頭購入
4,500
セブン-イレブン店頭購入
2,500
U29(29歳以下)オンライン決済2,000

 筆者は、京都モダン建築祭がパスポート制、つまり有料の道を選んだことはとてもいいことだと思っている。

 なぜならイケフェス大阪は、基本的に企業の協賛とボランティアスタッフで成り立っている。本当にすごいと思うが、すご過ぎてなかなか真似はできない。多分、そう思っていた地方都市の建築好きは多いと思う。有料ならば、事業としてこうしたイベントを検討しやすい。もっと安い金額に設定して、数を絞ってスタートするという方法もあるだろう。

 京都の場合、観光都市なので、もともと建築ツアーがビジネスとして成立しており、近現代建築限定だからといってタダにしてしまうと既存の観光業の妨害になってしまう。それもあって、京都のような大観光地では有料方式の方がやりやすい。

 逆に小さな都市では、無料型の方が現実的かもしれない。小都市では「お金を払ってまでわざわざ…」という気持ちになる人もいるだろう。とはいえ、大阪のように大企業の協賛を複数得て無料化することは難しいので、そこは自治体がある程度お金を出す方向に持っていく必要がある。毎年やらなくても、ビエンナーレ(隔年)とかトリエンナーレ(3年に1度)という選択もあり得る。“大阪スキーム”、“京都スキーム”という分かりやすい選択肢が示されたことで、その都市の実情に合った企画が立てやすくなる。

 今年は、京都モダン建築祭の仕掛け人たちが、京都スキームで「神戸モダン建築祭」を開催する。会期は11月24日(金)〜26日(日)の3日間だ。

 さて、この動き、来年以降、どう広がるか。東京は? おっと、この話はいずれ改めて当サイトでお話ししたい。(宮沢洋)