日曜コラム洋々亭60:実は“型枠対決”だった「みんなの建築大賞」受賞2件、発泡スチロール型枠にも驚き

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 今回は「型枠」の三大話である。

最近、気になった“型枠が主役”の建築3件(写真:特記以外は宮沢洋)

 この1カ月ほど、「みんなの建築大賞」にエネルギーのほとんどを使ってきた。ノミネート作である「この建築がすごいベスト10」のそれぞれについても書いたし(こちらの記事)、特に「大賞」と「推薦委員会ベスト1」の2件については、かなり詳しく書いた(こちらの記事)。それなのに、2月15日に行われた発表会の場で、受賞者2人(VUILDの秋吉浩気代表取締役CEO、伊藤博之建築設計事務所の伊藤博之氏)のプレゼンテーションを聞いていて、今まで全く意識していなかったことに気づいた。それは、「どちらも型枠の発想転換から生まれた建築である」ということだ。

左が伊藤博之建築設計事務所の伊藤浩博之氏、右がVUILDの秋吉浩気代表取締役CEO(写真:森清)

 型枠の話だけすると、大賞の「学ぶ、学び舎」(設計:VUILD)の方は、CLTの塊を3D木材加工機で切り出し、コンクリート躯体の打ち込み型枠(コンクリート打設後もそのまま仕上げとする型枠)として使用している。全体を1000パーツ以上に分けて人が運べる大きさにし、プラモデルのような接合部とすることでコストを下げた。

(写真:宮沢洋)
型枠の施工中の様子。溝状の部分がコンクリート打設後に梁となる(写真提供:VUILD)
コンクリート打設の様子(写真提供:VUILD)

 推薦委員会ベスト1に選ばれた「天神町place」(設計:伊藤博之建築設計事務所)の方は、非流通材の木材を型枠として使っている。非流通材というと何やら高そうだが、スギ非赤枯性溝腐病という被害にあったスギを使っており、流通材の型枠用実付きスギ板を使うよりも安い約1000円/m2で型枠を製作できたという。

コンクリート打設に使用した型枠(資料提供:伊藤博之建築設計事務所)

 どちらの建築も他にいろいろポイントがあり過ぎて、この共通項に気づかなった。不覚。気づいていたら、発表会に来ていたメディアの人たちに、「どちらも既存の型枠の見直しから生まれたエコ建築だ」みたいなことを言ったのに…。なので、いま書いている。

 考えてみると、コンクリートのプレキャスト化が進むのも、3Dプリンター施工に注目が集まるのも、手間がかかってCO2排出も大きい型枠が“悪者”にされているからで、コンクリート自体はどうやって打設しようがCO2排出量はほとんど変わらない。

 2人のプレゼンは、ともに“どうしたら型枠が悪者でなくなるか”がデザインのスタートになっており、“型枠の逆襲”みたいに思えた。

土木では当たり前の発泡スチロール型枠

 そのプレゼンを見ていて思い出したのが、今年1月に見た「能美防災 三鷹工場」の外壁。設計は三菱地所設計で、すでにリポ―トした「MUFG PARK」(こちらの記事)の近くにあるということで見学させてもらった(三菱地所設計の公式サイトでの紹介はこちら)。

 この工場、通りから見ると、全く工場に見えない。オシャレな研究所という印象。搬出入のエリアを通りから見えにくくするというプランニング上の工夫に加え、外壁の凸凹パターンが工場感を払拭している。

 この凸凹装飾壁、建築系の人なら絶対にプレキャスト板だと思うだろう。だが、現場打ちコンクリート+塗装なのだ。聞けば、型枠に使ったのは発泡スチロールなのだという。コンクリートが打ち上がった後、表面の発泡スチロールをべりべりとはがすとこうなるそう。

 これは私が知らなかっただけで知っている人は知っているのだと思うが、土木分野では発泡スチロール型枠による凸凹装飾は当たり前に使われているらしい。そう、擁壁などの模様だ。

 擁壁はお世辞にもオシャレに見えないが、さすが大手建築設計事務所が施設の顔としてデザインするとこんなふうに仕上がるのか。まさにデザインの力。

 発泡スチロールは分別すれば大部分が再資源化できるし、そもそもほとんどが空気だ。型枠にスギ板や合板を使い捨てで用いるのに比べたら環境にいいだろう。

 発泡スチロールが最善とは思わない。だが、型枠を“木以外”でつくるというのはいろいろな可能性がありそうだ。廃材とか火山灰とかを圧縮してつくれたりはしないのだろうか。みんなが3Dプリンターを考えるのではなく、そういう研究を一方でどんどんやったらいいのに。自分が理系の学生だったらやるんだけどなあ…(昔から人と同じ方向を向くのが嫌い)。

 「みんなの建築大賞」発表会で、受賞者2人のプレゼン(5分×2)を見ていて、そんなことを考えた。とても刺激的な10分間であった。(宮沢洋)