世界遺産ブラジリア写真ルポ03:傑作、ブラジリア大聖堂は「二度完成した」

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 いよいよ「ブラジリア大聖堂」(カテドラル・メトロポリターナ)である。オスカー・ニーマイヤーが好きな人に「ブラジリアで見たいものは?」と聞いたら、まず頭に浮かぶのはこれではないか。

(写真:宮沢洋、以下も同じ)

 ブラジリア大聖堂は、三権広場から西に約2kmの幹線道路脇にある。完成は1970年。庁舎ばかりだったブラジリアに、色を添えたのがこの建築だ。もしこれがなければ、世界遺産登録もなかったではないか。そう思わせるほど、記憶に残る建築だ。

 まずは外観から。上の写真の右手に見えるのは鐘楼だ。

 聖堂本体は円形平面で、16本の「く」の字に折れた鉄筋コンクリートの柱を上部で束ねた形状。周囲をぐるっと水盤が覆っている。これには、ガラス張りの建物を気化熱によって冷やす効果がある。

 聖堂の正面アプローチ。地下に向かうスロープで建物内に入る。

 内部に入った第一印象は「明るい!」。ステンドグラスの教会は数多く見てきたが、そのどれとも明るさの次元が違う。「く」の字の架構も足元の存在感がなく、ふわっと浮いたよう。とても鉄筋コンクリート造とは思えない。というか、この白い板が構造体とは思えない。紙のようだ。

 建物内に入ったときには、太陽が雲に隠れていたのだが、しばらくいると太陽の光が差してきた。すると、床の白い大理石がコバルトブルーの海に!! ステンドグラスはこの効果も狙っていたのか…。今日この日を晴れにしてくれた建築の神様、ありがとう!

 ガラス面をよく見ると、細いスチールを立体的に組んだサッシが実に繊細。こうした「軽さ」も演出できるセンスが、同時代のモダニズムの巨匠たちとはちょっと違う気がする。

竣工当初は「ステンドグラスなし」

 現地に行くまで知らなかったのだが、このステンドグラスはいったん建物が竣工したしばらく後になって、付け加えられたものだという。もちろんニーマイヤーの同意の下でだ。

 ステンドグラスのデザインはフランス人のマリア・ペレッティで、第1回のリポートで「自由と民主主義のパンテオン」のステンドグラスをデザインしたのと同じ人だ。

 小聖堂(上の写真)に向かう通路に、建設時の資料が展示されており、ステンドグラス追加の経緯はそこにも書いてあった。

 写真を見ると、ステンドグラスがない状態もシンプルで美しい。その状態の方が、ガラスを支えるサッシの繊細さが際立つ。だが、やはりステンドグラスを加える改修がなかったら、これほど多くの人の心をとらえることはなかったのではないか。

 マリア・ペレッティによるステンドグラスのデザインもいいが、ニーマイヤーファンとしては、大胆な改変をよしとしたニーマイヤーを称えたくなる。

対照的な、重くて閉鎖的な“土星”

 そんな「軽くて繊細な鉄筋コンクリート造」を見た数分後、その対極ともいえる建築に衝撃を受ける。晩年の2006年に完成した「国立美術館」(ギマラエス・ナショナル・ミュージアム)だ。

 これは、形の説明は不要だろう。とにかく写真を見てほしい。

 前回も引用したニーマイヤーの言葉をもう一度引用する。

 「私が心惹かれるのは直角や柔軟性に欠く直線ではない。ただ自由で官能的な曲線だ」

 ブラジリア大聖堂と国立美術館の位置関係は、グーグルマップなどで見てほしい。道を挟んだ西隣の敷地だ。

 こんな間近に、全く対照的なデザインを並べる大胆さ。デザイン的な共通項はほとんどないが、どちらも、「誰が見てもニーマイヤー」だ。

 アプローチの長いスロープを上り、館内に入ろう。外部から想像されるマッシブな空間のイメージと実際の印象がかなり違う。そこがまたニーマイヤー。ちなみにこの美術館は入場無料だ。

 内部の展示室は2層構成で、半分ほどが吹き抜け。上のフロアは、天井から吊られている。細いスチールの吊り材がランダムに並び、外観の重量感とは対照的な軽やかさを醸し出す。

 そして、息を飲むような曲線のスロープ。階段の円弧の内側にアート作品が展示されているが、むしろ階段の方がアートのようだ。

 土星のリングのような屋外のスロープには出られなかった。強烈な印象のスロープなので、これはかなり残念。人に聞いたところでは、この日だけでなく、いつもこの扉は閉まっているらしい。

 それにしても、この建築が完成した2006年は、ニーマイヤー99歳だ。この建築を見たら、「オレも歳か…」なんて軽々しく言えなくなる。

国立図書館、国立劇場もニーマイヤー

 国立美術館の立つこのゾーンは文化ゾーンで、ほかにもニーマイヤー設計の建築がある。ざっと見てみよう。

 美術館の西隣に立つ「国立図書館」。完成は2007年。ニーマイヤーは100歳…。

 その北西500mほどのところにある「国立劇場」。これは1960年の街開き時からあった。

 ピラミッドのように閉鎖的な外観だが、傾斜した黒っぽい屋根面は実はガラスだ。作品集の写真を見ると、ホワイエは外観の印象とは対照的に、屋外のように明るい。この日は休館だったので、玄関のガラス扉から中をのぞいてみた。

 ここまでブラジリアの東側地域を見て回った。滞在できるのが2日間だと、回れるのはこれくらいだ。だが、筆者はブラジリアに4日間いたので、まだ回れる。次回(最終回)は“飛行機の翼”(あるいは弓)よりも西側を巡る。(宮沢洋)

▼第1回、第2回、第4回の記事
世界遺産ブラジリア写真ルポ01:遷都60年!ニーマイヤーの奇跡、三権広場へ
世界遺産ブラジリア写真ルポ02:魅せる庁舎、見せないミュージアム、渡れない歩行者
世界遺産ブラジリア写真ルポ04:JK記念館、ファティマ教会、青の聖堂─西も見応えあり!