世界遺産ブラジリア写真ルポ04:JK記念館、ファティマ教会、青の聖堂─西も見応えあり!

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 ブラジリアルポの最終回となる今回は、“飛行機の翼”よりも西側を巡る。ブラジリアを訪れる日本人観光客も、西側にあるニーマイヤー建築を見て回る人は少ないようで、旅の情報としては今回が一番貴重かもしれない。

 最初にリポートするのは「メモリアルJK」だ。

埋めて象徴性を高める「JK記念館」

 「JK」が何だったか覚えているだろうか。女子高生ではない(しつこくてすみません)。ブラジリアへの首都移転を先導したジュセリーノ・クビチェク大統領のことだ。この施設はJKの墓所兼記念館。日本語では「クビチェク大統領記念館」の名でガイドブックなどに載っている。

 場所は“飛行機の本体”と“尾翼”の中間辺りだ。

 第2回でリポートした「ルシオ・コスタ博物館」と同様、主要部分のほとんどが地下に埋まった建築だが、地上部分の印象が全く違う。こちらは地下に埋めることによって、アプローチやJKモニュメントの象徴性を強調している。決して「見せない建築」ではない。

 南北に細長く伸びた建物の両側に水盤が広がる。その水盤の中央から地下に潜っていくアプローチは、安藤忠雄氏の本福寺水御堂(1992年、下の写真)を思い出させた。

 メモリアルJKは1980年完成なので、こちらの方が古い。天才の発想はしばしばシンクロする。

 館内では、JKがブラジリア建設に果たした功績を展示している。屋根中央の丸い部分の下は、JKの墓碑だ。赤いステンドグラスの光は、屋根の丸部から取り込んだ自然光と思われる。

遠近2度見したい「陸軍本部ゲート」

 続いて、メモリアルJKから1.5kmほど北西にある陸軍本部へ。陸軍の敷地内には入れないが、入り口のゲート(ドキ・ジ・カイシャス広場)は見ることができる。

 この曲面、このスパン、この量感…。こんな形の鉄筋コンクリートの塊を、一体どんな型枠でつくったのか。そもそもどんな図面を描いたのか。

 ゲートを間近で見た後は、道路を挟んで西側にある「クリスタル・スクエア」という公園から遠景を見たい。近くで見たときとは印象が変わる。

 ゲートの白い屋根面が、糸のように細い線でヘアピンカーブを描いて見える。なるほど、ニーマイヤーはここからコンクリートの薄さを見せたかったのか…。自分の建築が最も魅力的に見える「視点場」を別の場所につくる、という点も安藤忠雄氏に似ている。

 先ほど「陸軍の敷地には入れない」と書いたが、劇場には展示コーナーがあり、建物内に入れる。見学者が珍しかったのか、ホール内も見せてくれた。

「陸軍教会」は壁が稲妻?

 陸軍関係施設では、本部から1kmほど南に戻った中心軸上にある陸軍の教会(カテドラル・ミリター・アイーナ・ダ・バズ1994年)も、内部が見学できる。

 西側の入り口から中に入ると、東面の壁の開口部がこんな形だ。

 稲妻? ムーミンの「ニョロニョロ」? 壁の色が黄色というのも大胆だ。

動線が面白い「インディオ博物館」

 陸軍教会から東に戻り、メモリアルJKを越えて、「インディオ博物館」(1999年)へ。この施設は小規模ながら、空間的に面白いつくりだった。

 いったんスロープで最上階に上り、そこかららせん状の展示空間を下りながら展示を見ていく。

 「下りながら」と書いたが、実際には傾斜が緩いので下っている感覚がない。

 展示を見終わると、地上の中庭に出て、「そういうことか!」とびっくりする趣向だ。中庭に立つ巨大しゃもじのような片持ち庇も、すごいインパクトだ。

ニーマイヤー恐るべし「ファティマ教会」

 そして今回の記事のニーマイヤー建築のラストは、飛行機の“南翼”中央辺りにある「ファティマ教会」だ。

 3つの三角形の壁で、三角形の屋根面を吊っている。何というダイナミックな構造。

 構造もすごいが、教会としてのオープン度合いもすごい。日中は入り口の扉が収納され、広場と一体化している。

 壁のタイルの模様がかわいらしくも美しい。

 建設時期を知ると、さらにびっくりする。この教会はブラジリア建設時にJK大統領の妻が建設したもので、街びらき当初からあった。つまり、ニーマイヤーは国会議事堂など首都機能の重要施設を設計する傍らで、この小さな建築にこんなにエネルギーを注いでいたのだ。一体どういう人間なのか…。

弟子の設計でも傑作!「ドン・ボスコ聖堂」

 さて、「ニーマイヤー建築のラストは」と書いたが、この教会の帰り道には、もう1つ必ず見るべき建築がある。ニーマイヤーの弟子のカルロス・アウベルト・ナベスが設計したドン・ボスコ聖堂だ(1970年)。

 外観は、薄い壁柱を直交させて屋根を支える構造が、外務省庁舎と少し似ている。

 中は、こんな感じだ。

 視界のほとんどが青! この空間は、イタリアの聖人、ジョヴァンニ・メルキオッレ・ボスコが1883年(明治16年)に見た夢をモチーフにしているという。

 ステンドグラスに近寄ってみよう。12種類の色を用いて、さらに大小を組み合わせている。

 写真では青の深みが伝わらないかもしれないが、本当に「海の中」にいるような神秘的な青さだった。

 いかがでしたか、ブラジリア。最後にクイズ。お土産に買ったこのTシャツ、描かれているものがすべて分かりますか?

 分からなかった方は、これまでの記事を読み返してください。

▼第1~第3回の記事
世界遺産ブラジリア写真ルポ01:遷都60年!ニーマイヤーの奇跡、三権広場へ
世界遺産ブラジリア写真ルポ02:魅せる庁舎、見せないミュージアム、渡れない歩行者
世界遺産ブラジリア写真ルポ03:傑作、ブラジリア大聖堂は「二度完成した」

 今回の記事を読んで、「ブラジルに行きたい!」と思った方、必ず行くべきです。そして、帰国したら、ニーマイヤー飲み会やりましょう!(宮沢洋)