表参道で稲山正弘氏の東大退官記念展、21世紀の木造デザインの歴史がここに!

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 「木を建てる – 稲山正弘展 東京大学退官記念展」が東京・表参道の「ギャラリー5610」で3月5日から始まった。会期は3月17日まで。開幕2日目に行ってきた。

屋外で出迎えるのは稲山研究室の学生たちがかつて東大・五月祭でセルフビルドした木質パビリオン「カラメンアーチ」の復刻版

 表参道駅から徒歩3分。通常はデザイナーやアーチストの作品展示を行うことが多いおしゃれなギャラリーで東京大学教授の退官記念展、しかも「構造」の展示をやるというのは、「集大成ではなく、むしろこれから」「いろんな人にみてほしい!」というメッセージにも思える。

 以下は公式の主旨文と稲山氏のプロフィル(太字部)。

近年、木造建築は注目を集めている。魅力的な木造建築の架構と形態は、建築家と構造家が協働して形作っているということを知っている人はどれだけいるだろうか。木質構造の第一人者である稲山正弘は、研究と設計の両面から、現代における最先端の木造を生み出し続けている。この展覧会では、木質構造家・稲山正弘が長年にわたって手掛けてきた木造建築作品と設計プロセスのエッセンスを紹介する。 (東京大学大学院木質材料学研究室)

●稲山 正弘(Masahiro Inayama)
1958 愛知県生まれ

1982 東京大学工学部建築学科卒業
1982~86 ミサワホーム勤務
1992 東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)
1990 稲山建築設計事務所(現・ホルツストラ)設立
2001~02 ものつくり大学助教授
2005~東京大学大学院農学生命科学研究科准教授を経て現在同教授
木質構造研究会会長、中大規模木造プレカット技術協会代表理事

【主な受賞歴】
2002日本建築学会賞(技術)、松井源吾賞、BCS賞、
2006杉山英男賞
2009 JSCA賞
2013日本建築士連合会優秀賞

2014日本建築仕上学会賞(作品賞・建築部門)
2015日本建築学会作品選奨
2016 BCS賞
2019日本建築学会教育賞(教育貢献)
2022日本建築仕上学会賞(作品賞・建築部門)
2023日本建築学会作品選奨
他受賞多数

稲山氏に注目したのは四半世紀前

 筆者は稲山氏に何度か取材したことがあって、最初に取材したのは日経アーキテクチュア1997年1月13日号の特集「新世紀の100人」だった。稲山氏はこの頃も東京大学で木造の研究をしていたが、助教授ですらなかった。そんな稲山氏に目を付けて「これからの木造はこの人だ」と世に打ち出したのは、我ながら「よくやった」という感じだ(ただし、自分で推薦したのかは覚えていない)。

 21世紀の木造デザインの歴史を見るようだ。1人の人間がこれを生み出したとは思えない。展示物の中に、個人的に思い出深いプロジェクトも多かった。例えばこれら。

 これ↓は北川原温氏とのコラボ。「岐阜県立森林文化アカデミー」。筆者は北川原氏の建築の中で一番これが好き。

 これ↓は筆者が独立して間もない頃の取材。隈研吾氏デザイン監修、前田建設・住友林業JV設計による木造の音楽ホール「桐朋学園宗次ホール」。CLT折板構造。

 「ふくしま建築探訪」の取材で見に行った「じょーもぴあ宮畑」。設計は大建設計・鈴木建設設計共同体、古市徹雄都市建築研究所。古市徹雄氏最晩年の建築。ギザギザの天井は構造材。

(イラスト:宮沢洋)

 そして、2023年4月に亡くなった野沢正光氏(野沢正光建築工房)による「飯能商工会議所」。

 完成前のプロジェクトもあって、これは全く知らなかった。なんと木造8階建て。

 野沢氏とこんなこともやっていたのか…。間もなく一周忌。これは出来上がったら見に行かねば。

 プロジェクトの展示ではないが、「そうだったのか」と思ったのは挨拶文の中のこの下り(赤線部)。

 なんと構造を目指したきっかけが「ガウディの建築を見たこと」だったとは! 筆者も昨夏、バルセロナでガウディ建築を見ても回って以来、「ガウディ先生」と呼び捨てで呼べなくなっているので、これを読んでとても共感した。

 ちなみに筆者は今、ガウディ先生も登場する構造系の本のイラスト執筆を担当している。出来上がったら稲山氏にも見てもらおう。(宮沢洋)

ギャラリーの公式サイト→https://www.deska.jp/exhibition_onview