国立近現代建築資料館「10周年展・第2部」が開幕、雑誌的な”対決展示”にやられたっ!

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 東京・湯島の文化庁国立近現代建築資料館で「日本の近現代建築家たち」の「第2部:飛躍と挑戦」が11月1日から始まった。同館の「10周年記念アーカイブズ特別展」の後半戦だ。会期は2024年2月4日まで。

(写真:宮沢洋)

 7月25日~10月15日に開催された「第1部:覚醒と出発」はすでに当サイトで報じている。

 国立近現代建築資料館に関しては、最近、建築家・伊東豊雄氏の「日本には私の図面を寄贈できるところがない」発言により、どちらかというとマイナスイメージで見ている方も多いかもしれない。ご存知ない方は下記の記事を参照。

 伊東氏の問題提起には「なるほど」と思うが、筆者はどちらかというと、こういう受け入れ先ができただけでも、日本の文化は一歩進んだなと感じている(故鈴木博之氏らの努力がなければ、今もなかったかもしれない)。

 そして、この施設は、寄贈された図面の展示・発信のクオリティーが高い。いかにもお役所的・証拠作り的な展示ではなく、展示のテーマや見せ方が編集者的・雑誌的だ。だから、頼まれなくてもつい見にきてしまう。所蔵品(寄贈資料)の受け入れ量が限定されるのは、スタッフの問題ではなく、そもそも運営予算が少ないということなのだと思う(予算を精査したわけではないので推測)。

 そして、今回の「日本の近現代建築家たち」の「第2部」も、とても面白かった。第1部よりも刺激的。「飛躍と挑戦」というタイトルには正直、ピンとこなかったのだが、企画の目玉を分かりやすく伝えるならば、「有名建築家たちの知られざる落選案対決」だ。例えばこんな対決。

国立京都国際会館設計競技応募案(1963年)
大谷幸夫、菊竹清訓、大髙正人、高橋靗一

 どれが誰だか分かるだろうか。答えは…。

上が高橋靗一、下が菊竹清訓
ぼけていて申し訳ない。上が大髙正人、下が大谷幸夫(当選)

最高裁判所庁舎設計競技応募案(1968年)
前川國男、大髙正人、大谷幸夫

ポンピドゥ・センター国際建築設計競技応募案(1971年)
前川國男、大谷幸夫

箱根国際観光センター企画設計競技応募案(1970年)
吉阪隆正+U研究室、坂倉建築研究所

時代が遡って、こんな渋いコンペもある。

忠霊塔設計図案懸賞応募案(1939年)
吉田鉄郎、坂倉準三

 なんて雑誌的。こんな贅沢な企画、前職(日経アーキテクチュア)時代にやってみたかった。

 全てが対決モノではなく、単品の挑戦作(アンビルド)があったり、建築家のグッズコーナー(関連資料、日記、写真アルバム等)があったりで、じっくり1時間は楽しめる。

吉田鉄郎:東京中央郵便局(1931年)
岸田日出刀:ゴルフコースと倶楽部ハウスのデザイン
坂倉準三:新宿西口計画(1966年)、神奈川県庁新庁舎(1966年)
丹下健三:シンガポール・スポーツ・コンプレックス計画(1972年)
吉阪隆正:大学セミナーハウス(1965年)
大髙正人:広島基町・長寿園団地(1978年)
高橋靗一浪速芸術大学コンペ案(1964年)、群馬県立館林美術館(2001年)
菊竹清訓:海上都市、アクアポリス(1975年)
原広司:ケルン・メディアパーク・コンペ案(1988年)、影のロボット(1986年)
安藤忠雄:水の教会(1988年)

安藤似顔絵も所蔵品?

 本題とは離れるが、安藤忠雄氏の関連資料の中にこんな手紙を発見。

 そう、手紙の締めに押されている赤い似顔絵のハンコは、宮沢画。知らない方はこちらの記事をご覧ください。

 これって、宮沢による似顔絵ハンコが国立近現代建築資料館の所蔵品になっているということ? 脇の説明文を読むと…

安藤は建築史家の鈴木博之らとともに、当資料館の設立に向け尽力し、開館時より名誉館長に就任している。2013年の開館記念特別展示(中略)の内覧会にあたっては、関係者への案内状に自ら作成した案内が添えられた。正式な所蔵品ではないものの、当資料館の歴史と原点を示す、重要な品であろう。(ここまで上の写真の説明文から引用)

 なんだ正式な所蔵品ではないのか。でも嬉しい! 「資料館の歴史と原点を示す、重要な品」、100年後まで大事にしてください! (宮沢洋)

■展覧会概要
文化庁国立近現代建築資料館 [NAMA] 10周年記念アーカイブズ特別展
日本の近現代建築家たち

文化庁国立近現代建築資料館(National Archives of Modern Architecture [略称 NAMA])は、平成24(2012)年11月に設置が決定され、平成25(2013)年5月に開館して、設立10周年を迎えました。日本の近現代建築は世界的にも評価が高く、それら資料の一部は有名海外美術館等でのコレクションにもなっています。こうした日本の新たな建築文化を国内で守り、アーカイブズとして発展させてゆくため当資料館は設立されました。この10年でコレクション(所蔵資料群)は30を超え、手描き図面を中心とした建築資料の収蔵は、20万点を超えました。図面をはじめ、スケッチ、関連資料、写真アルバム等、多岐に渡り、コレクション毎に内容は異なります。多様な資料を通し、近現代建築家達の軌跡を見ることができます。この10年の活動を紹介しながら、NAMAの建築家アーカイブズより、日本の近現代を創り上げてきた12名の建築家たちに関するコレクションを、2部に分けて紹介します。

第1部:覚醒と出発 (第1部は終了)
建築家たちが建築界に名を刻んだ出発点となった作品や、日本の近現代建築の発展に大きく貢献した作品や活動を展示します。それぞれの建築家たちがどのような想いからこれらの作品を発想し、実現させたのか、これらの建築が社会や建築史においてどのような位置づけとなってゆくかをたどります

第2部:飛躍と挑戦
建築家たちの飽くなき挑戦の数々を紹介します。代表的な作品のみならず、未完に終わった名作やコンペへの意欲的な応募案を加えた展示を通じて、生涯かけて挑み続ける建築家たちの創造力と生き様をご覧いただきます。

主催:文化庁
協力:公益財団法人東京都公園協会
会場:文化庁国立近現代建築資料館(東京都文京区湯島4-6-15 湯島地方合同庁舎内)
会期(第2部):令和5年11月1日(水)~令和6年2月4日(日)
*12月28日(木)~1月4日(木)年末年始休館、毎週月曜休館(但、9月18日、10月9日、1月8日は開館、9月19日、10月10日、1月9日は休館。)
時間:10:00‐16:30
公式サイト:https://nama.bunka.go.jp/exhibitions/2307