日曜コラム洋々亭26:「リノベ圧勝、新築頑張れ」“推しケン2020”ベスト5はこれだ!

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明けましておめでとうございます。日曜日には少し早いですが、元旦・祝日ということで、2021年の“書き初め”はこのコラムにしました。お題は、2020年に宮沢が見た建築のお薦めベスト5です。

 2020年は独立1年目ということで、時代遅れの人にならないよう、かなり意識的に新作を見に行った(緊急事態宣言期間を除く)。本コラムではその中から、宮沢が「建築関係者・建築好きならばこれは必ず見るべき」とイチオシする建築(推しケン)のベスト5を挙げたい。ベスト5の中では順番がつけづらいので、見た順に紹介する。

(写真:宮沢洋、特記を除き以下も)

「京都市京セラ美術館」

 1つ目は5月に開館した京都市京セラ美術館。設計は青木淳・西澤徹夫設計JV。戦前に建てられた美術館の増改築だ。いわゆる歴史的建造物のリノベーションでここまで手を入れたものは日本では珍しい。特に、1層分掘り下げて地下から入る形にしたアプローチが素晴らしい。詳細はこの記事を。

「京セラ美術館ついに開館」「隈研吾展は1年延期」必見ミュージアム総まとめ!

「新宿住友ビル三角広場」

 2つ目は7月にオープンした「新宿住友ビル三角広場」。改修設計は日建設計と大成建設。日建設計のアトリウムといえば、新宿NSビルが「ガラス屋根が高いアトリウム」の傑作だが、ここはガラス屋根が低く、ゆるやかに広がる新たなアトリウム体験を提供する。

詳細はこちらの記事を。

速報!初の超高層本格増築「三角広場」お披露目、ビフォー・アフターを写真で比較

「UNIQLO TOKYO」

 3つ目は、東京・銀座に6月にオープンした「UNIQLO TOKYO(ユニクロトーキョー)」。デザインアーキテクトをスイスの建築家ユニットであるヘルツォーク&ド・ムーロン(H&deM)が担当した。実施設計は竹中工務店。

 既存ビルの改修で、床をバンバン抜く“大胆さ”と、露出した梁の見せ方の“繊細さ”の両面により見る者を圧倒する。さすがH&deM。こんなリノベーションの見せ方があるのかと感心した。

「こども本の森中之島」

 4つ目は7月に大阪・中之島にオープンした「こども本の森中之島」。設計は安藤忠雄氏。安藤氏の「子ども図書館」といえば、「国際こども図書館」(旧帝国図書館の増改築)が思い浮かぶが、あれとは全く印象が違う。ここは、子どもをわくわくさせる仕掛けに満ちている。やっぱり安藤氏はこのくらいのスケールの建築がうまい。

本棚に「昭和モダン建築巡礼」が! 子どもにもお薦めなんだ。うれしい!

 ここは、古巣である日経アーキテクチュアの取材で行ったので、WEB会員の方はこちらの記事を。

細道をすり抜け“森”に出会う─こども本の森 中之島(大阪市)/日経クロステック2020年8月27日公開

 日経のこの記事は、安藤氏から「なかなか良かった」とお褒めの言葉をいただき、そんなことは滅多にないので、それも含めてベスト5に挙げたい。

「白井屋ホテル」

 5番目は、前橋市に12月にオープンした「白井屋ホテル」。設計は藤本壮介氏。バンバン床を抜く点は「UNIQLO TOKYO」と似ているが、吹き抜けの迷宮感ではこちらの方がすごい。レアンドロ・エルリッヒ氏による配管アートとのコラボも成功している。詳細は以下の記事を。

衝撃の迷宮的吹き抜け、藤本壮介流リノベーション「白井屋ホテル」を見た!

次点ではこんなリノベ建築も…

 私は見ていないのだが弘前の「弘前れんが倉庫美術館」もリノベーションの話題作だ。設計は田根剛氏。これも見ていたら、ベスト5に入れたかもしれない。スタッフの長井が書いた記事はこちら。

本日プレオープン、シードル・ゴールド屋根の「弘前れんが倉庫美術館」

(写真:長井美暁)
(写真:長井美暁)

 隈研吾氏が監修した「新風館」も入れようかどうか迷った。これは、吉田鉄郎が設計した「旧京都中央電話局」の増改築だ。既存の施設に調和させるという観点とは全く違う手法で一体化させていることに驚く。

 ということで、1年を振り返って思い出すのは、安藤氏の「こども本の森 中之島」を除いてリノベーションばかり。「日本のリノベーションは守り過ぎていて面白くない」─。そんな印象をずっと思っていたのだが、2020年はそのマイナスイメージ(偏見?)がガラガラと崩れた1年だった。

 ただ、リノベーションは、改修前の建物を重ねて見るので、物語性が新築よりも増すという優位性がある。経済状況も考えると、しばらくは「リノベーションの時代」が続くかもしれない。なので、2021年の幕開けはこうエールを送りたい。「新築、頑張れ!」 (宮沢洋)