日曜コラム洋々亭59:「みんなの建築大賞」を立ち上げた訳、そして第1回「東京建築祭」との共振

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 日曜公開が原則のこのコラムだが、「みんなの建築大賞」の最後のプッシュのために1日早く公開することにした。まだ投票していないあなた、下記の記事をご覧いただき、推しの建築に「♡(いいね)」を投じていただきたい。投票はX(旧Twitter)上。受付は明日2月11日(日)23:59までだ。

建築賞への「なぜ?」は30年前から

 去る2月4日(日)の夜、みんなの建築大賞推薦委員会の委員長である五十嵐太郎さんの企画で、投票応援番組「みんなの建築大賞2024に投票しよう!【ゲスト:候補の建築家たち】」が生配信された。番組には「この建築がすごいベスト10」に選ばれた10組のうち、7組が生で登場。1組がビデオでメッセージを寄せた。今から見たいという方はこちらで見られる(冒頭部のみ無料)。

 その番組の序盤で、賞の言い出しっぺである私が、企画の経緯を話した。ざっくり言うとこんな内容だ。

 自分はもともと建築学科の出身ではない。1990年に『日経アーキテクチュア』(前職)に配属されたとき、建築業界に多くの違和感を持った。その1つが建築の賞についてだった。

 建築の賞はどれも、一般紙でほとんど取り上げられない。当初は日本の建築のレベルが大したものではないのだろうと思っていたが、何年かやっているうちに、世界のトップクラスだと分かった。これはなんとももったいない。日本で建築文化が深まらない一因ではないか。そう感じるようになった。

 一方で、賞をとる建築にも違和感を抱くようになった。それは、受賞する建築が“時代を代表する建築”といえないケースが多いこと。建築の編集者ですら知らない建築が選ばれることが少なくない。受賞作を並べても、時代感が伝わってこない。これは、審査のプロセスにも起因すると思うが、そもそも「応募した建築」の中から選ばれるからではないか。

 そんな疑問を抱えていたところに、2003年から「本屋大賞」がスタートした。書店員の投票で選ぶ賞で、応募制ではない。ご存じのとおり、本屋大賞は年々、知名度を増し、今では誰もが知る賞となっている。

 建築版の本屋大賞ができないか──。これが「みんなの建築大賞」を立ち上げようと思ったきっかけである。

推薦委員会は「ベスト10」まで、「大賞」はX投票に委ねる

 実際に動き出したのは独立後。コロナ禍に光が差し始めた2022年の暮れだった。BUNGA NETと同時期(2020年春)にスタートしたWEBメディアの「TECTURE MAG」に、まず声をかけた。。TECTURE MAGからはすぐに、「面白い、やりましょう」と返事がきた。

 両メディアのスタッフ数人が集まって話をし、まず「X(当時はTwitter)をからめて大賞を決める」という方向性が決まった。実は私自身は、もともと本屋大賞をイメージしていたので、編集系の人間だけで投票して選ぶことを考えていた。だが、言われてみれば確かに、「建築」はそんな閉じた決め方では一般に広がらない。「本」はそもそも一般に浸透しているから、あのやり方でも情報が広がるのだ。

 編集委員会で候補作10作を選び、そこから先はX投票に完全に委ねる方式に決めた。

 やり方の大枠が決まった段階で建築系の編集者や、建築をたくさん見ていそうな建築史家に声をかけた。約30人の賛同が得られた。メンバーを「推薦委員会」として、メンバー内で賞の名称を募集し、「みんなの建築大賞」に決めた。2023年5月に、賞の創設を宣言。

 今年に入って、1月15日に推薦委員会を開いてベスト10を選定。1月29日から投票を開始。今現在の票数は、Xの公式アカウント(https://twitter.com/minnanokenchiku)を見ればおおよそ分かる。(厳密に計算したい方は「追-」と付いたポストと、付いていないポストの2つの♡数を足す)

 投票のやり方については、今年の反省を来年の実施方法にフィードバックする予定だ。

 賞の成否についてまだ言える段階ではないが、個人的に1つ思うことは、これは自分が雑誌に所属していたら仕掛けることができなかったやり方だったということ。良しあしはあれど、WEBやSNSで建築情報をインプットする人が増えている今だからこそ実現できたことだと思う。

第1回「東京建築祭」のクラファンがスタート!

 そんなWEB重視の賞を運営していながら何だが、私には結構な罪悪感がある。建築を100字足らずの紹介文と4枚の写真で評価してもらっていいのか、ということである。

 本来、建築は体験するものである。自分は実体験を通して建築の面白さを知った。

 賞の準備を進めながら、そんなことを自問自答していた昨年の夏に声がかかったのが、「東京建築祭」の話だ。

 これは昨日(2月9日)、クラウドファンディングが始まったのでそちらを見てほしい。

https://motion-gallery.net/projects/tokyokenchikusai2024

 開催日は2024年5月25日(土)、26日(日)の2日間。初回の今回は「1.日本橋・京橋エリア」「2.丸の内・有楽町・大手町エリア」「3.銀座・築地エリア」の東京中心部に絞って実施する。

 イベントに先立って、5月20(月)18時からキックオフイベントが銀座の「三越劇場」で開催される。ゲストは建築家の藤本壮介氏ほか。

 この東京建築祭の実行委員に筆者も名を連ねている。

■東京建築祭実行委員会
実行委員長:倉方俊輔(大阪公立大学教授)
委員:
伊藤香織(東京理科大学教授)
田所辰之助(日本大学教授)
山﨑鯛介(東京工業大学教授)
野村和宣(株式会社三菱地所設計エグゼクティブフェロー)
松岡孝治(公益財団法人東京観光財団)
宮沢洋(株式会社ブンガネット代表)
以倉敬之(合同会社まいまい代表)

 建築公開イベントの先輩格である「イケフェス大阪」を毎年見に行っており、行く度に「東京では難しいだろうな」と思っていた。長くなるので詳細は省くが、東京でやろうとすると、もろもろハードルが高すぎる。

 実行委員長から直接、声を掛けられた。実行委員長はこのサイトで「ポストモダニズムの歴史」を連載する倉方俊輔さんだ。(最新記事はこれ↓)

 倉方さんに声を掛けられたら「即答でOK」…というわけではなくて、正直、相当迷った。待ち受ける困難を想像すると、ボランティアでやるには大変過ぎる。それでも最終的に引き受けようと決めたのは、「みんなの建築大賞」に欠けている部分を埋められる、と思ったからだ。いや、埋めるというような小さなものではない。双方のイベントへの関心が重なり、共振し合うことで、“建築文化の民主化”の大きな波動が生まれるのではないか。そう思った。

 まずはクラウドファンディングだ。受付期間(応援期間)は2024年5月8日まで。目標金額400万円。「みんなの建築大賞」ともども、応援をお願いしたい。(宮沢洋)

初日(2月9日)19時の応援状況。その後、だいぶ増えました! クラファンは初速が大事らしいので、とにかくサイトを見てみてください(上の画像をクリックすると飛びます)