地方庁舎でも広がる「設計・施工一括」、古平町庁舎は“発電する窓”と“RCの木立ち”でZEB実現

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 北海道・古平(ふるびら)町は2020年2月、北海道内で初めて「ゼロカーボンシティ宣言」を行った自治体だ。町民やマスメディアに向けてその範を示すことになる省エネ庁舎の建設が大詰めを迎えている。設計・施工とも大成建設。2022年春から使用開始予定の新庁舎の現場を訪ねた。

(写真:宮沢洋、以下も)

 古平町は北海道西部、積丹半島の北東側に位置する海辺の町だ。札幌から見ると、西に40kmほどのところに小樽があり、さらに30kmほど西に進むと古平町がある。人口3000人弱。そんな小さな自治体が、新庁舎建設にあたって「設計・施工一括型」の提案競技を行うところに、時代の変化を感じる。

ZEB化を条件に設計・施工一括型の 公募プロポ

 何が「時代の変化」なのかというと、日本では戦後から1990年代の初めごろまで、公共建築の設計発注には「専兼(せんけん)の壁」という高い壁があり、「専業」(=設計事務所→公共建築の設計の発注対象になる)と「兼業」(=建設会社設計部→公共建築の設計の発注対象にならない)の活動領域は明確に分けられていた。

 古平町が新庁舎を含む中心拠点誘導複合施設を対象に設計・施工一括型の公募プロポーザルを実施したのは2018年。地上3階。延べ面積4000m2弱。「ZEB化」が条件だった。予算内で確実にZEB化を実現するならば設計・施工一括発注は有力な選択肢だ。とはいえ、どこの建設会社でも手を挙げられるものではなかったようで、応募したのは大成建設1社だけだった。古平町は審査委員会を開き、同社を優先交渉権者に決定した。

 施設は基本設計が終了した2019年2月の段階で「設計段階の1次エネルギー消費量51%削減」が認証され、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)に基づく最高ランクの5つ星と、1次エネルギー消費を50%以上削減する「ZEB Ready(ゼブ・レディ)」評価を取得した。道内の公共施設で初のZEB Ready取得となった。

 このときのプレスリリースによれば1次エネルギー削減のポイントは下記の3点だ。

(1)地中熱利用空調システム
地中熱を建屋内の放射暖冷房、外気処理に利用し空調エネルギーを低減
(2)人検知設備自動制御システム
「T-Zone Saver」人の在席状況を検知して照明を自動で制御し照明エネルギーを低減
(3)自然エネルギー利用
吹き抜けを利用した自然換気・夜間の冷気取入れにより空調エネルギーを削減昼光利用により照明エネルギーを低減

 この文面だけだと、なんだか生真面目で面白みのなさそうな建築に思える。それでも現場を見たいと思った理由の1つは、先に触れたように建設会社の単独設計であること。もう1つは、この↓外観だ。

現場を案内してくれた大成建設の面々。左から本社設計本部デザインプロデュース室長の高橋章夫氏、札幌支店設計部設計室(建築担当)の杉野宏樹氏、同設計室(電気設備担当)の藤間一憲氏、同計室(機械設備担当)の山本進氏

木立ちのようなRC壁柱に組み込んだ輻射暖冷房

 木々が並ぶさまをイメージしたという、鉄筋コンクリート(RC)の壁柱。熱損失を防ぐために開口部を狭めなければならないことを逆手に取った。

 壁柱は外断熱なので、外部側(断熱材の外側)はプレキャスト。室内側は北海道産カラマツを型枠として使用したコンクリート打ち放し。間近で見ると木目がくっきりしていて、本物の木のようだ。

 この壁柱は暖冷房の装置も兼ねる。先に挙げた地中熱ヒートポンプによる温冷水を壁柱内に流し、室内側の壁を温め冷やす輻射暖冷房だ。

カネカと共同開発した太陽光発電ガラスも

 さらに、南東と南西面の開口部には、太陽光発電ガラス「T-Green® Multi Solar」を採用し、外が見える状態で発電する。

太陽光発電ガラス は外から見るとやや黒っぽい
室内から見ると、ほとんど透明

 T-Green Multi Solarは、大成建設とカネカが共同開発した太陽光発電ガラスで、太陽電池セルをストライプ状に合わせガラス内に挟み込んだもの。2021年度のグッドデザイン賞を受賞している。

近づくと、 太陽電池セル がストライプ状に配置されているのが分かる

 建築設計担当者である大成建設札幌支店の杉野宏樹氏は、この開口部と壁柱を合わせて、「太陽光を浴びて光合成しながら発電する木立ち」と表現する。なるほど、「発電する木立ち」はうまいキャッチコピーだ。

複合梁の集成材は「型枠」兼「構造」兼「意匠」

 室内の天井面も目を引く。各部屋の上部には、集成材と鉄筋コンクリートPC梁を一体化した複合梁「T-WOOD® PC-BEAM」が並ぶ。

 「T-WOOD® PC-BEAM」は、PC梁の両側面を集成材でサンドイッチにしたものだ。集成材はPC梁製作に用いる鋼製型枠の代わりに型枠として使ったもので、型枠の取外し作業が不要となり、廃棄物も減らせる。集成材とPC梁を構造用ビスで一体化しているため、梁全体の曲げ剛性(変形のしにくさ)が10~20%程度向上し、曲げ耐力(壊れにくさ)も50%程度向上する。この複合梁を用いて床版を構築した場合、床の振動が10%程度低減されるという。

 中心部分の吹き抜けは、煙突効果で自然換気や夜間の冷気取り入れを促進し、空調エネルギーを削減する。

 技術の話からは離れるが、こんな遊びもある。3階図書館の壁柱では、コンクリート打ち放しのプラスチックコーン(Pコン)の穴に、古平町内の子どもたちが描いた絵をアクリル円盤に入れて埋め込む。

 ワークショップを開いて約200個のPコンアートを制作した。

 専兼の壁が崩れていくことに、専業の設計事務所からは異論もあるだろう。しかし、現場を見ると、この建築はなかなかに挑戦的だ。大成建設として、今後、地方都市の庁舎の設計・施工一括受注に力を入れていくという意思表明にも見える。専業設計事務所には手強い競争相手になりそうだ。(宮沢洋)

■建築概要
名称:古平町中心拠点誘導複合施設
建設地:北海道古平郡古平町大字浜町356他
階数:地上3階+塔屋
発注者:古平町
設計・施工:大成建設
延床面積:3887㎡
工期:2020年4月~2022年1月(予定)