「麻布台ヒルズ」が2023年11月24日に開業する。東京都港区の虎ノ門と麻布台、六本木にまたがり高台と谷地が入り組んだ高低差の大きい場所だ。森ビルが11月20日のメディア内覧会で主要施設をマスコミに公開したので、その中から建築的に見どころがある空間をピックアップしてお届けしよう。
麻布台ヒルズは、35年もの時間をかけて、官・民・地元が一体となって進めてきた市街地再開発事業だ。森ビルは1989年に「街づくり協議会」を設立し、約300人の権利者らとともに再開発を進めてきた。区域面積は8.1ヘクタールに及ぶ。東京の国際競争力アップに向け、世界水準の多様な都市機能を高度に複合している。例えば、慶應義塾大学の予防医療センターや、都心最大級のインターナショナルスクールを備える。開発のコンセプトは、“緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街 -Modern Urban Village-”。2.4ヘクタールの緑地を創出し、人々が自然と調和しながら、安全かつ心身ともに健康で豊かに生きることのできる街づくりを目指している。
施設は大きく、森JPタワーとタワープラザ、ガーデンプラザA~D、レジデンスA~B(Bは建設中)、そして中央広場から構成される。森JPタワーの横には「ブリティッシュ・スクール・イン 東京」の校舎が立つ。オフィスやレジデンスを中心とする森JPタワーは、高さ約330mで、日本一の超高層ビルとなる。レジデンスAには、レジデンスの他、13階までにアマンによるラグジュアリーホテル「JANU(ジャヌ)」が入る。2024年2月開業予定だ。ガーデンプラザとタワープラザでは、エリア全体で150店舗、延べ2万3000 m²の商業施設が順次、開業する。
森JPタワーをはじめとする超高層タワーの外観デザインは、米国のペリ・クラーク・アンド・パートナーズが担当した。これまで麻布台ヒルズ周辺では「愛宕グリーンヒルズ」や「アークヒルズ 仙石山森タワー」を手掛けている。一方、ガーデンプラザなど低層部の建築とランドスケープデザインは、英国のトーマス・ヘザウィック氏率いるヘザウィック・スタジオが担当した。同氏は、ロンドンオリンピックの聖火台など、数々の著名プロジェクトのデザインで知られる。麻布台ヒルズは、ヘザウィック・スタジオが日本で初めて手掛けるプロジェクトだ。全体の設計は森ビルが担っている。
以下、主要施設の建築的な見どころをたどっていこう。
中央広場——約6000 m²の広さを持つ緑豊かなへそ空間
麻布台ヒルズの巨大な“へそ空間”が、中央広場だ。面積は約6000 m²に及ぶ。果樹園・菜園といった人の営みとの関わりを意識したものをはじめ、多くの緑に覆われている。森JPタワーのすぐ前には500 m²の広さを持つ「麻布台ヒルズアリーナ」を配しており、各種イベントに利用できる。中央広場と森JPタワーには森美術館のキュレーションによるパブリックアートも設けられている。オラファー・エリアソン氏や奈良美智氏、曽根裕氏、ジャン・ワン氏といった世界的なアーティストの作品を選んだ。
ガーデンプラザA——文化発信の中核、麻布台ヒルズ ギャラリーを収める
麻布台ヒルズは、敷地全体で延べ9300 m²の文化施設を抱える。文化発信の中核になるのが美術館仕様の設備を備える「麻布台ヒルズ ギャラリー」だ。開館記念展として「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」を開催する。会期は2023年11月24日から24年3月31日まで。オラファー・エリアソン氏は、我々を取り巻く世界との関わり方に疑問を投げかけ、再考を促す作品で知られている。ガーデンプラザAには、この他、「集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリー」もある。同社が初めて設けるリアルなギャラリー空間だ。
ガーデンプラザB——日本初にして最大のベンチャーキャピタルの拠点も
敷地東側の桜田通りの顔とも言えるヘザウィック・スタジオによる曲線を用いたデザイン。この建物の4~5階にあるのが「Tokyo Venture Capital Hub」だ。独立系ベンチャーキャピタルとコーポレートベンチャーキャピタル約70社が集結する場で、日本初にして最大規模となるベンチャーキャピタルの拠点となる。その他、「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」もガーデンプラザBに入る。同ミュージアムは2024年2月上旬にオープンする予定だ。
ガーデンプラザC・レジデンスA——オープンが待たれる「麻布台ヒルズ マーケット」とホテル「ジャヌ東京」
両施設の中でも、空間として注目されるのが、ガーデンプラザCの「麻布台ヒルズ マーケット」と、レジデンスAのラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」だ。残念ながら23年11月24日の麻布台ヒルズ開業時にはその全容を見ることはできない。麻布台ヒルズ マーケットは24年1月下旬、ジャヌ東京は同2月に開業する予定だ。
タワープラザ——大きな吹き抜けの周りに約60店舗が集まる
中央広場から、麻布台ヒルズアリーナのキャノピーを抜けてアプローチすると大きな吹き抜け空間が迎えてくれる。このタワープラザは、森JPタワーの低層部に配されている。1~4階にはカフェから、ファッションやライフスタイル雑貨、大型書店、クリニックまで多彩な業態を収めている。3階にはレストランゾーンもある。
森JPタワー——「あべのハルカス」を抜いて日本一の高さに
高さ約330mの森JPタワーが完成。これまで日本一だった大阪市の「あべのハルカス」(高さ300m)を抜いて新たに日本一となった。基準階面積は約4260~約4840 m²と、最大級のフロアプレートを持つ国際水準のオフィスだ。33~34階には「ヒルズハウス」と呼ぶ企業の垣根を越えてワーカーが集うスペースが設けらており、大階段やダイニングスペース、ビストロなどを備えている。上層階にはレジデンス、5~6階には「慶應義塾大学 予防医療センター」が入る。
以上が建築的に目立った空間だ。ぜひ、散歩がてら訪れて、お気に入りの場所を見つけていただきたい。(森清)
<麻布台ヒルズ概要>
- 計画名称:虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業
- 所在地:東京都港区虎ノ門5丁目、麻布台1丁目および六本木3丁目の各地内
- 開発区域面積:約8.1ha
- 敷地面積:約6万3900m²(麻布台ヒルズ森JPタワー 約2万4100m²、麻布台ヒルズレジデンス A 約1万6500m²、麻布台ヒルズレジデンス B 約9600m²、ガーデンプラザ A,B,D 約1万2000m²)
- 建築面積 :約3万7100m²
- 延床面積 :約86万1700m²(麻布台ヒルズ森JPタワー 約46万1800m²、麻布台ヒルズレジデンス A 約16万9000m²、麻布台ヒルズレジデンス B 約18万5300m²、ガーデンプラザ A,B,D 約4万3800m²)
- オフィス面積:約21万4500m²
- 緑化面積 :約2万4000m²
- 住宅戸数 :約1400戸
- 店舗面積:約2万3000m²
- 用途:事務所、住宅、店舗、ホテル、文化施設、インターナショナルスクール、診療所他
- 階数:麻布台ヒルズ森JPタワー 64階、麻布台ヒルズレジデンス A 54階、麻布台ヒルズレジデンス B 64階
- 高さ:麻布台ヒルズ森JPタワー 約330m、麻布台ヒルズレジデンス A 約240m、麻布台ヒルズレジデンス B 約270m、ガーデンプラザ A,B,D 約41m
- 着工:2019年8月
- 竣工:麻布台ヒルズ森JPタワー 2023年6月、ガーデンプラザ 2023年6月、麻布台ヒルズレジデンス A 2023年9月
- 構造:S造(一部SRC造)他
- 設計:A街区(麻布台ヒルズ森JPタワー) 基本設計=森ビル、日本設計 実施設計=森ビル、日本設計、清水建設(地下構造設計・共同設計)/ B-2街区(麻布台ヒルズレジデンスA) 基本設計=森ビル、日本設計 実施設計=森ビル、日本設計、清水建設(地下構造設計・共同設計)/ C街区(ガーデンプラザ) 基本設計=森ビル、山下設計 実施設計=森ビル、山下設計、大林組(C-2街区、C-3街区構造共同設計)
- 施工:清水建設、三井住友建設、大林組他
- 施行:施行者 虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合、特定建築者 森ビル