サッカー好き必読! 日建設計が進める「カンプノウ」再生が7年越しで着工、バルセロナ市民注目

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 まずはこの3人の笑顔を見ていただきたい。左から野村映之・日建設計グローバルデザイングループアソシエイトアーキテクト、伊庭野大輔・日建設計グローバルデザイン部門GD設計部アソシエイトアーキテクト、大西吉人・日建設計グローバルデザイングループダイレクターアーキテクト。3人とも、2016年に日建設計とパスカル・アウジオ・アルキテクテス(スペイン)のチームで「カンプノウ」の再生コンペに当選したときからのメンバーだ。7年かかってようやくの本格始動となった。

(写真:宮沢洋、以下も同じ)

 背後で激しく解体されているのは、カンプノウの南側。工事は今年6月から始まっていたが、こんなにわかりやすく壊し始めたのはごく最近のことのようで(撮影は7月4日)、バルセロナ市民が興味深そうに現場を眺めていた。

 筆者(宮沢洋)は今、バルセロナでこれを書いている。『誰も知らない日建設計』https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532324421/(日本経済新聞出版、2021年)の著者でもあるので、当然、カンプノウ再生プロジェクトのことは知っていた。そもそも日経アーキテクチュア副編集長だった2016年3月、コンペ結果の記事は筆者が書いた。

日建設計手掛ける、サッカーの聖地カンプ・ノウ大規模改修https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/column/15/110300017/071500044/

 だが、今回はこの取材のためにバルセロナに来たわけではない。目的はガウディやら磯崎新やらを見るためであった。3カ月ほど前にバルセロナ行きを決めた時、日建設計の人に「バルセロナにカンプノウチームの人はいますか」と聞いたのだが、「チーム全員、日本に戻ってきました」と寂しそうな顔で答えたので、「聞いちゃいけないことだったか」と取材予定から外していた。

 筆者が出国する数日前に、念のため日建設計にカンプノウのことを確認すると、「ちょうど解体工事が始まったところで、設計チームが宮沢さんと同じタイミングでバロセロナに打ち合わせに行きます」との答え。なんと!! 自分の引きの良さを褒めたい。しかも、現地に行ってみると解体の絵ヅラがすごかった。これは、日本のサッカーファンのために速報せねば。

 重機がこんなに間近に並んでいる姿は日本では目にしない。解体の本気さを伝えるメッセージのよう…。

工事中のスタジアムの賑わいにびっくり

 現カンプノウは1957年完成。サッカー好きなら誰もが知るFCバルセロナの本拠地だ。収容人数は約9万9000人。これを10万5000人に拡張する。収容人数を増やすことよりも、総合的な快適性を高めることが主目的だ。

 FCバルセロナグッズのショップに、新スタジアムの外観パースがデカデカと飾られていた。

 コンペ案から見た目は大きく変わってはいない。提案の最大の特徴は、スタジアムの外周を取り巻く半屋外のテラスだ(コンペ案ではコンコースと呼んでいた)。大規模競技施設にこんなにゆったりしたテラスがあるのは珍しい。

 先端の薄いスラブ(床のコンクリート)がシャープな印象を与えてかっこいい。とは思うものの、内心「何のためのテラス?」と思っていた。しかし、バルセロナに来て、この場所の賑わいを見て意味がわかった。

 今日は何かのイベント? いや、この日は何もない日である。そもそも今シーズンは工事のため、スタジアムとしては使わない。しかし、隣接するショップやミュージアムを訪れた人たちでこの賑わいなのだ。

 現在は工事のために休止されているが、通常の無試合日にはスタジアムツアーが行われる。ショップ、ミュージアム、スタジアムツアーの利用者を合計すると、年間約200万人に上るという。アンビリーバブル。恐るべきバルサファン。

 6月から解体工事が始まったため、これまでスタジアムの一角にあったミュージアムが、旧スケート場だった建物に移されていた。オープンして間もない。日本のバルサファンのために、その雰囲気も写真で。

 ミュージアムの終盤には、新スタジアムの説明コーナーも驚くほど充実。

広いテラスは「何もない日」にゆったり過ごすため

 新スタジアムのテラスの話に戻る。あの広いテラスは、もちろん試合日のためもあるが、むしろ試合のない日のためなのだ。ここにテーブルと椅子を並べ、ゆったりとコーヒーやビールを飲みながらサッカーの話をする。人によってはサッカーとは関係なく世間話に花を咲かせる。バルセロナの街がここにも生まれるのだ。

 左は、設計の狙いを熱く説明する伊庭野氏。

 既存スタジアムを派手に壊しているが、客席や上部躯体を撤去し、下部躯体は生かす。コストのためもあるが、SDGs的な視点をかなり重視しているという。

  ミュージアムの説明パネルをみると、「Inauguration(落成)」は「2026−2027season」とある。3年後か…。これも日本ではほとんど報道されていない貴重な情報だ。

 何をどう残し、何が変わるのか。着工までにどんな苦労があったのか。プロジェクトの詳細については、3人の帰国後に改めて取材してリポートしたい。(宮沢洋)