祝プリツカー賞、私が見た山本理顕氏の“思わず声が出る”すごい建築

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 山本理顕氏が「建築界のノーベル賞」とも呼ばれるプリツカー賞を受賞したニュースが世の中を駆け巡っている。「建築の面白さを一般に伝える」というテーマで活動している自分(宮沢)としては、山本氏の受賞もうれしいが、こんなに建築の話題を一般メディアが取り上げることに涙が出そうになる。(昨晩のTBS「ニュース23」では23時半ごろから5分間くらい山本氏の話題だった)

坂牛卓氏著『建築家の基点』(彰国社、2022年)の表紙に描いた山本理顕氏の似顔絵(イラスト:宮沢洋)

 何度見ても(あるいは読んでも)うれしいニュースなのだが、山本氏の業績が「コミュニティ」とか「交流」とか「家族」とか、プログラム面ばかりで語られるのがちょっと気になった。山本氏の著作にもそういうタイトルが多いので間違ってはいない。でも、山本氏の建築をけっこう見てきた筆者(宮沢)としては、「もっとデザインのことを語れよ」と言いたくなるのである。

 とはいえ、正面から山本氏のデザインを論じるには1年くらいの準備期間が必要なので、ここでは筆者が特に強く感じるデザイン的特質について触れたい。あまり実物を見たことがないだろう建築を2つ選んだ。いずれも実物を見ると、目が点になる。

(写真:宮沢洋、以下も)

 1つはこれ↑。「公立はこだて未来大学」(2001年)。函館市のはずれの方にあるので、観光で函館に行ってもなかなか行きづらい。

 この吹き抜け、実物を見ると、「うそお!」と声が出る。

 抜き抜けの大きさ、階段状の広がり。よくこんなものが大学で実現したな…。

 しかし、考えてみると、吹き抜けの大きさだけならこのクラスのものは他にもある。思わず声が出てしまうのは、大きさと反比例するような細部の緻密さなのだ。あらゆる部分が工業製品のような精度でできており、それが凛とした空気感を生む。

全体が機械部品のような福島エコムスパビリオン

 「工業製品のような精度」を確認するなら、これ。アルミメーカーSUSの「福島エコムスパビリオン・SUS福島工場」(2005年)だ。

 これは珍しいアルミニウム造。ずっと見たかったのだが、昨年、「ふくしま建築探訪」の取材で実物を見ることができた。やはり「うそお!」と声が出る。

 かつて見たことのない構造材の端部。機械部品のようなコンマ何ミリの世界。

「ふくしま建築探訪」で描いたイラスト(イラスト:宮沢洋)

 近くにある伊東豊雄氏設計の「SUS福島社員寮」(2005年、こちらもアルミ造)も見学させてもらったのだが、山本氏とは全く違うふわっとした空間だった。

 山本氏の話に戻ると、氏の多くの建築では、システマチックな大空間と工芸品のように微細なディテールが共存している。こういう特質は、他の建築家ではあまり思い浮かばない。

 山本氏は決して“プログラムだけ”の建築家ではない。今回のニュースで山本氏に興味を持った人は、山本建築の楽しみ方として、そんな視点も持って見に行くとより楽しめると思う。(宮沢洋)