日曜コラム洋々亭17:森山大道が密着映画で見せた「生真面目さ」に共感、いつか建築写真集が見たい!

Pocket

 このドキュメンタリー映画は冒頭、菅田将暉の独白で始まる。その人はずっと「憧れの人だった」と。誰が憧れの人なのか。緒形拳でも役所広司でもない。映画の主役は写真家の森山大道である。

 そして、菅田将暉だけでなく世界の写真好きが憧れる森山大道が、映画の中盤辺りでつぶやくこのセリフ。「そうか」「そうなのか」と、肩の力が抜ける感じがした。

(イラスト:宮沢洋)

 「カメラなんて写りゃいい」──by森山大道。

 2021年4月公開の映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』を、ひと足先に先行上映で見た。

 森山大道、1938年生まれ。今年82歳にして現役の写真家。建築関係の人は写真好きな人が多いと思うので、森山大道を好きな人が多いかもと思い、このコラムで紹介することにした。とはいえ、「誰それ?」という人もいるかもしれない。以下は、最近まで東京都写真美術館で開催されていた森山大道展(下の写真)の人物紹介だ。

 スナップショットの名手として知られる、日本を代表する写真家・森山大道は、1960年代に写真家として活動を開始し、そのハイコントラストや粗粒子画面による作風は「アレ・ブレ・ボケ」と形容され、写真界に衝撃を与えました。以来、世界各国の美術館での大規模展、2019年のハッセルブラッド国際写真賞をはじめとする数々の国際的写真賞の受賞など、デビューから55年を経た現在もなお世界の第一線で活躍し続けています。
(2020年6月2日~9月22日に開催された「森山大道の東京 ongoing」@東京都写真美術館の紹介文から引用、実際の作風を知りたい人は同展のサイトへ)

(写真:宮沢洋、下も)

 「ハイコントラストや粗粒子画面による作風」「アレ・ブレ・ボケ」「写真界に衝撃」──。この映画はそんな作風がどのように生まれ、現在はどのように写真と向きあっているのかを丁寧に描く。冒頭に人気俳優の菅田将暉を持ってきていることからも分かるように、誰もが興味を持てるように分かりやすくつくられている。前衛映画ではないので、森山作品を知らない人でも安心して見られるだろう。そして、森山の写真、というか森山本人のことがきっと好きになる。

 実は私も、森山の写真は好きだったが、作品や顔写真から想像される“野獣イメージ”から、本人には興味がなかった。自分には関わりのない世界の人だと思っていた。だが、この映画を見て、イメージががらりと変わった。なんて自然体で、生真面目な人!

 冒頭で取り上げた印象的なセリフを、ここでもう一度。

 「カメラなんて写りゃいい」

 これは、ファンから「フィルム時代の写真に戻りたくはないか」というようなことを問われ、さらっと答えたセリフだ。映画を見終わってから、資料写真を見ると、森山が映画内で手にしているカメラはニコンの「COOLPIX S7000」。

 2015年発売当時、世界最軽量のコンパクトカメラ。現在は生産されていないが、当時の実勢価格を調べてみると、なんと1万円台!

 このサイト(BUNGA NET)のほとんどの写真をiPhoneで撮っている私は、最近、一眼レフカメラを滅多に使わなくなっていること(重くてかさばるので…)を後ろめたく思っていたが、「撮れれば何でもいいんだよ」と自分に声をかけられたような感じがした。もちろん、技術と才能があっての話だとは思うが。

建築の写真がもっと見たい!

 森山の人間性でもう1つ共感したのが、森山が写真集を買ったファンにサインをするシーン。見た目は野獣のような森山が、ファンの一人ひとりに、びっくりするほど時間をかけてサインをするのだ。歳をとって手が動かないというのではない。本当に1文字1文字丁寧なのである。こういう人柄だから、今もオファーがあり、それに全力で応えることができるのだなと、納得した。

 森山が撮った写真も映画中に多数登場する。新宿・ゴールデン街や秋葉原など、猥雑な都市の写真は、いかにも森山らしい。私は、森山が「古い街並み」や「カオス」しか撮らないのだと思っていたのだが、日常の森山は、真新しい超高層ビルなどにも頻繁にカメラを向けている。上映中、「あれは一体どんな写真が撮れているんだろう」とずっと気になっていた。すると映画の終盤になって、1枚だけ真新しい超高層ビルの写真が映った。

 豊島区庁舎が入る「としまエコミューゼタウン」(隈研吾+日本設計、2015年竣工)だ。「すごっ!!」。あのビルがこんなふうに撮れるのか…。映るのはほんの一瞬だが、「森山大道の建築写真集が見てみたい!」と強く思った。

 誰かつくってくれないかなあ。あんな飾らない、真面目な人ならば、熱意を持ってお願いすれば協力してくれるのではないだろうか。何なら私が…、と、そんなふうに価値観ががらりと変わる良質のドキュメンタリー映画だった。(宮沢洋)

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』
監督・撮影・編集:岩間玄
プロデューサー:杉田浩光、杉本友昭、飯田雅裕、行実良
2021年4月30日より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント他全国順次公開
公式サイト:https://daido-documentary2020.com/