加速するミュージアム・ダイバーシティを十和田市現代美術館&八戸市美術館で体感──「青森5館」全制覇・後編

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 「青森5館(AOMORI GOKAN)」巡りの後編である。前回は5館のうち、
・弘前れんが倉庫美術館
・青森県立美術館
・青森公立大学 国際芸術センター青森

を巡った。今回(青森3日目)は残り2館を巡る。
・十和田市現代美術館
・八戸市美術館

 まずは、十和田市の「十和田市現代美術館」へ。これは有名過ぎて今さら恥ずかしいのだが、実物を見たのは初めてだ。

屋外彫刻はチェ・ジョンファの「フラワー・ホース」(写真:宮沢洋、以下も)

 開館は2008年。設計は西沢立衛氏だ。「1つの箱に1つのアート」という基本構成はもちろん写真を見て知っていたが、個々の箱がガラスの渡り廊下のようなものでつながっており、それが“屋外のような屋内のような”不思議な感覚であることが実際に行ってみてわかった。

どっちが外なのかわからなくなる?

 展示されているのは現代アート作品で、大型のものが多い。「1箱1アート」であることもあって、ここの展示作品はどれもメッセージがわかりやすい。自分が子どもだった頃、美術館で難解な現代アートを見るのがすごく嫌だったのが思い出される。考えさせるのが狙いだったのだとは思うが、そういうものとは全然違う。実際、来ていた子どもたちも楽しそうだ。

わかりやすい代表格、ロン・ミュエクの「スタンディング・ウーマン」

 既にこの施設に行ったことのある人は、ここから先の写真を見てほしい。同館は昨年4月、開館以来、初めてとなる常設作品の入れ替えを実施した。新たに常設されたのは近年大人気のアーチスト、塩田千春氏の「水の記憶」だ。十和田湖から着想した作品という。これも頭で考えるよりも先に、体が赤い糸に包まれる(からみとられていく)感覚だ。

 そして、昨年12月には、展示替えではなく、「新たな展示室」も公開された。プレスリリースではこんなあおり方↓だった。

体験型の大規模インスタレーション《建物》シリーズが世界初の常設展示に
レアンドロ・エルリッヒ《建物—ブエノスアイレス》 2021年12月1日(水)より公開

 アルゼンチン出身のアーチスト、レアンドロ・エルリッヒは、体験型の大規模なインスタレーション作品で知られる。金沢21世紀美術館のプールに潜るアート(作品名「スイミング・プール」)をつくった人だといえば分かるだろうか。私は、2017年に六本木の森美術館で行われたエルリッヒ展を見て、すっかりファンになった。そのときにも展示された《建物》シリーズが、ここでは新設の部屋で常設されているというのだ。

 それを見るために十和田まで行ったと言っても過言ではない。なのに、普通に館内を巡っているとなかなか見つからない。常設は自分の勘違いか? スタッフに聞いて、ようやく場所が分かった。建物の裏庭のようなスペースに別棟として立っているのだ。

右奥に見えるのがエルリッヒの展示室

 知らないと見逃して帰る人もいそうなので、絶対に見てほしい。こんな展示だ。仕組みを説明すると感動が薄れるので、ご想像を。

はしゃぐ中年男性……私です

話題の「ジャイアントルーム 」を見た!

 そして青森5館巡りの最後は、「八戸市美術館」。2021年11月に開館したばかりの」ニューフェイスだ。設計者は、西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体。


 SNSなどでは、「ジャイアントルーム」という部屋が話題になっている。それ以上の予備知識はなしで訪れたので(言い訳めいているが予備知識はあまり詰め込まずに建築を見ることにしている)、「ジャイアントルーム」がいわゆる「展示室」でないことにびっくりした。エントランスホールと連続する巨大な多目的空間で、訪れた日には、いくつかに緩く区切ってワークショップのようなイベントを行っていた。

 もちろん、企画展の内容によっては、ここも展示室の一部として使うのだろう。そういう多目的なスペースを美術館の中心に据えているのも面白いし、「ジャイアントルーム」という強いネーミングで「ここが活動の主体だ」とアピールするのも面白い。「1箱1アート」の十和田市現代美術館とは逆方向の考え方だ。

企画展の展示の様子

 十和田市現代美術館が個性的であるがゆえに、車で1時間ほどの八戸市に同じタイプの集客施設はいらない。それとは全く違うものを考えた結果なのだろう。考えてみると、青森5館の他の3件も、それぞれベクトルが違う。判で押したようなかつての公立美術館のイメージはない。今風にいえば、ミュージアム・ダイバーシティか。

 5館の本格連携が始まると、アートにどんな広がりが生まれるのか。この先が楽しみだ。(宮沢洋)

前編のレポートはこちら↓。
「青森5館」全制覇! まずは田根剛/弘前れんが倉庫、青木淳/青森県美、安藤忠雄/国際芸術センターへ