パリの田根剛アトリエ(ATTA)を訪問、話題のヴィトラ「ガーデン ハウス」や新帝国ホテルはここで誕生

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 コロナ禍がひと段落し、5年ぶりにパリを訪ねた。行きたかった場所の一つが、田根剛氏のアトリエ(ATTA–Atelier Tsuyoshi Tane Architects)。コロナ期間に移転したという新オフィスは、何やらかっこいいらしい。事前に連絡すると、田根氏は「ちょうどその期間、日本に行っていてパリにいません!」とのこと。それでも、広報担当の近藤清香さんが「オフィスを案内しますよ」ということで、見に行ってきた。

 場所はパリ12区、リヨン駅から徒歩10分ほど。パリの街に溶け込んだ建物の4階。階段を上ると、おおっ、なんて広々。そして、屋外のような開放感。

(写真:ATTA)

 聞けば、このビルは駐車場ビルなのだという。その最上階をオフィスに改修した。なるほど、帰りに他のフロアをのぞいてみると、駐車場だった。

(写真:特記以外は宮沢洋)
1階はレンタカー店が目印
駐車場ビルなので、4階まで車も上れる。大きな模型の搬出入に便利

 ここに現在、25人ほど(インターンを含む)が働いている。

 さし支えない範囲でオフィス内の写真を撮らせてもらった。 

あ、新帝国ホテル! 田根氏がデザインアーキテクトを務め、2031〜2036年度に建て替えが行われる予定
壁に貼られていた388FARMと帝国ホテルのイメージ図 。日本でのもう1つの大きな話題は左の「388(ササハタハツ)FARM」という農園計画。プロジェクト名は、緑道がまたぐ京王線笹塚・幡ヶ谷・初台駅の一文字ずつを取っている。マスターデザインを田根氏が担当
壁にはプロジェクトシートがびっしり

 個人的にうれしかったのはこのトロフィーだ。

 これは筆者(宮沢)が前職の『日経アーキテクチュア』編集長だった2018年暮れに、「アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2019」に田根剛氏を選んだときのトロフィーだ。(そのときの記事はこちら→アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2019に田根剛氏/日経アーキテクチュア2018年12月13日号

最新作は 「The new Tane Garden House on the Vitra Campus」

 で、どうして田根氏が筆者と入れ違いで、日本に行っていたかというと、最新作のこのプロジェクトの話をするためだったらしい。

(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)

 「The new Tane Garden House on the Vitra Campus」。スイスの家具メーカー、ヴィトラ社の「ヴィトラ キャンパス」(ドイツ国境のヴァイルアムライン)に田根氏の設計で完成した新しいガーデンハウスだ。

 ここまでの記事だと単なるミーハー事務所訪問記になってしまうので、そちらの写真を借りて紹介する。以下、テキスト(太字部)はヴィトラ社のプレスリリースより。

 2023年6月、アートバーゼルの開催期間中、パリを拠点とする日本人建築家の田根剛(ATTA–Atelier Tsuyoshi Tane Architects)による新たな建築「Tane Garden House(ガーデン ハウス)」がヴィトラ キャンパスにて発表されました。

田根氏とヴィトラのロルフ・フェルバウム名誉会長(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)

 ヴィトラの名誉会長であるロルフ・フェルバウムが、建築家の田根剛を車に乗せ、ヴァイル・アム・ラインをともに訪れたのは、今から約3年前のことでした。そして、ロルフ・フェルバウムは彼の幼少期や、現在ヴィトラキャンパスがある土地の歴史や思い出を語りました。田根剛による新たな建築「ガーデン ハウス」のアイデアはその時に生まれました。「未来の記憶-Archaeology of the Future」という彼の哲学に基づき、その場所の記憶を紡ぎ未来へと繋ぐガーデンハウスは、2023年6月、アートバーゼル開催に合わせて発表、公開されました。

(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)
(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)

 「設計に至るまでの私たちの長い道のりは、まるで考古学者のように、場所の記憶を探り、掘り起こすことから始まります。知らなかったこと、忘れてしまっていたこと、近代化とグローバル化によって失われてしまったことやものに出会う探求の旅は、驚きと発見に満ちています。すべての場所には、その土地に深く刻まれた歴史があり、これから先もそうであると私は信じています。そして、その記憶は決して過去のものではなく、新たな建築を生み出す源であることも。場所の記憶から未来を構想するプロセスを通じ、考古学は次第に建築へと変わっていきます」と田根剛は語ります。

(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)
(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)

 田根剛は自身の思想に加え、持続可能性という観点から、地上(オーバーグラウンド)をコンセプトにガーデンハウスの素材となる石や木材は可能な限りその土地で調達され、地元の職人によって建てられました。材料輸送の距離も短く、例えば、採石場と石工を経て運ばれる花崗岩はヴィトラキャンパスまで28km、木材は50kmという短距離の移動で事足りました。

 15㎡というコンパクトな敷地内に建設されたガーデンハウスは、小さなコーヒーキッチンを備え、8名ほどであればそこでワークショップをしたり宿泊も可能な大きさですが、ヴィトラキャンパスの「アウドルフガーデン」を整える庭師の休憩小屋と園芸道具の保管が主要な設計目的です。ヴィトラキャンパスにある小さな養蜂箱でミツバチの世話をするヴィトラの社員や、現在ガーデンハウスの隣に作っている家庭菜園の管理者も使用できます。外のベンチ、ブーツや園芸道具を洗うための小さな噴水も建物の一部です。さらに、展望台も併設され、アウドルフガーデンや、移築された篠原一男の「から傘の家」など、ヴィトラキャンパスの景観を360度楽しむことができます。

(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)
(Photographer: Julien Lanoo,Courtesy of ATTA and Vitra)

 田根剛のガーデンハウスは、篠原一男の「から傘の家」、安藤忠雄の「カンファレンス パビリオン」、SANAA の「ファクトリー ビルディング」に続き、ヴィトラキャンパスにおいて4つ目の日本人建築家による建物です。

 2023年秋には、ヴィトラデザインミュージアムギャラリーにて、田根剛の建築とガーデンハウスのプロジェクトの製作過程を紐解く特別展を予定しています。

 日本から移築された篠原一男の「から傘の家」も近くにあるのか。見たいなあ……。ようやくコロナが明け、3年ぶりの海外出張から戻ったばかりなのに、また行きたい場所が増えてしまう。建築沼は深い。まずは田根さん、近藤さん、ありがとうございました! (宮沢洋)