【大手メディアの方へ】羽島市が坂倉準三による旧市庁舎の民活提案を募集中、「20年以上の活用」と「耐震補強」が条件

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 どうでもいい記事もたくさん書いているサイトなので、どうでもよくない記事が見逃されてしまうのかもしれない。世の中の話題になかなかならなくて歯がゆいので、改めて書くことにした。解体が議論されている坂倉準三設計の旧羽島市庁舎(1959年竣工)が、利活用の提案を民間事業者から募集している。募集が公表されたのは、7月7日で、提案書の受付期間は8月22日~9月30日。提案の締め切りまではあと2カ月あるが、質問の受付は8月12日(金)までなので、本気で出す人は急いで実施要領を読んだ方がいい。詳細は羽島市のサイトを。

(写真:宮沢洋、2022年6月撮影)

 これまでの経緯や旧市庁舎内の写真などは、本サイトの下記の記事を読んでほしい。この記事は、6月に私が羽島市に旧市庁舎を見学に行ったら、たまたま「民間提案の募集を検討している」という話を聞いて書いたもので、どこにも出ていないスクープ記事だった。

風前の灯の坂倉準三「羽島市庁舎」、民間提案募集が「あるかも」と聞き、勝手に提案

 実際、羽島市は7月7日に募集を開始した。だが、募集条件やスケジュールに関して、ネットを調べても一般メディアでは全く報道されていない。載っているのは市のサイトと建設業界紙のみ。これでは資金力のある民間事業者が興味を持ちようもない。まずは、この情報を世に広めてほしいので、記事タイトルに【大手メディアの方へ】と書いてみた。

 ポイントは下記の2点だ。

(1) 旧本庁舎を長期間(20年以上)にわたり活用するために必要となる耐震性の確保など施設の安全性を確保し、事業を継続的に実施すること。
(2) 施設改修に係る工事費用及び施設運営に係る経費等については、民間事業者の負担とすること。

 市はお金を出さないが、賃料も取らない。その代わり、耐震改修して安全に使え、ということである。これは、残念ながら解体となった「都城市民会館」(設計:菊竹清訓)のときと同じだ。

 ちょっと意外だったのは、使用期間を「〇〇年以内」と区切るのではなく、「20年以上」としていること。ものを人に貸すのに「〇〇年以上」という条件は珍しい。市も、形式的に提案を募集しているわけではなく、本当に長く使ってくれる事業者を求めているのかもしれない。

 市は過去に、「補強の種別により17億円または32億円が必要」と試算している。仮に50年使う提案なら、17億円投資するとしても年間3400万円。総額ではかなりの金額だが、これだけの施設の年間賃料+ブランディング料と思えば、出す企業は出すのではないか。

「10年間、ほおっておく」案(再掲)

 以前の記事に書いたが、私自身は「ほおっておく」のが良いと考えている。以下にその部分を再掲する(太字部)。

 で、私はこう思うのである。「10年間、ほおっておく」というのはどうだろうか。10年間あれば、おそらくこの建築は重要文化財になる。そうすれば、市民の多くがその価値を認めるようになる。改修工事に補助金もつく。ビジネス界にも知られるようになり、コンソーシアムを組んで活用するような事業スキームを考える時間も生まれる。「ほおっておく」というのは、未来への勇気ある選択だ。

 「重要文化財」の可能性について言うと、坂倉準三の出世作である「旧神奈川県立近代美術館(1951年、現・鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム)が、2020年末に国の重要文化財に指定された。そして今年(2022年)2月、丹下健三が設計した「香川県庁舎東館」(1958年、旧本館および東館)が、戦後の庁舎建築として初めて重要文化財になった。羽島市庁舎の完成は、香川県庁舎の翌年の1959年。「民主主義の精神を体現したモダニズム建築」としては、香川にひけをとらない。そして、何より羽島市は、坂倉の生まれ故郷である。重文指定の理由は揃い過ぎている。

 ほおっておくなら、差し当たって大きな費用はいらない。幸いにして、建物のまわりがぐるっと堀になっているので、近づけない。IS値が低いといっても、いますぐ倒壊するほど傷んではいない(実際、昨年10月までは普通に使用していた)。入り口のスロープの「立ち入り禁止」がさすがに見苦しいので、ここに植栽帯を新たに設けるくらいか。そのくらいの費用ならばクラウドファンディングで集められる。

 この提案、私も民間事業者の1人として市に提出したら、受け付けてもらえるだろうか。以下の応募条件に私ははまるのか、はまらないのか…。

(1) 民間事業者(事業の実施主体となる意向を示す法人又は複数企業体によるグループ等)
(2) (1)において、提案内容を運営できる十分な資力、経営能力及び社会的信用を有する者

 (2)はどうかなあ。クラウドファンディングにどんな「資力」がいるんだろうか。

 それはさておき、まずはこの話題、皆さんの力で広めていただきたい。(宮沢洋)