日曜コラム洋々亭16:半沢直樹を盛り上げた「東博階段」、気になった人は原美術館の最終企画展へ!

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 日曜劇場「半沢直樹」(シーズン2)を欠かさず見てしまった。今日の放送がラス前らしい。あの階段、残り2回の放送に出るだろうか……。

あの階段は…(イラスト:宮沢洋、以下も同じ)

 「あの階段」とは、半沢直樹が勤める東京中央銀行本店の大階段だ。下階から上階に向かう途中にゆったりとした踊り場があり、そこから左右に分かれる。ヨーロッパの宮殿や豪華ホテルを思わせるような二又階段(振り分け階段とも呼ぶ)だ。

 頭取や役員らが、踊り場にずらっと並んで、階段を上がってくる大臣や金融庁職員を出迎える。銀行の重厚感を伝えるのにうってつけの映像だった。

 あれはスタジオではなく、ロケである。建築好きの人は、言われなくても分かっているかもしれない。そう、ロケ地は、東京・上野の「東京国立博物館」(通称、東博)本館の正面玄関にある階段である。

 東博本館は、渡辺仁(1887〜1973年)の設計で1938年に完成した。渡辺仁は東京・銀座にある和光(旧服部時計店、1932年)の設計者として有名だ。

 渡辺仁は、日本建築史上指折りの「階段の名手」である。

 と私は思っている。ゴージャス系階段では、この東博本館のほか、横浜のホテルニューグランド(1927年)のメイン階段も必見だ。

 渡辺仁は、外観の装飾的なイメージから「古いタイプの様式主義建築家」と思われているかもしれない。しかし、私が彼を「階段の名手」と呼ぶのは、こと階段に関しては型にはまっていない自由な造形に果敢にチャレンジしているからである。和光の階段(↓)も、光の入れ方が実に面白い。

 東博本館でいえば、メインの二又階段よりも、両脇にあるサブ階段の方が好きだ。書籍『プレモダン建築巡礼』(2018年刊)のイラストでも、そっちを大きく描いている(↓)。なんてモダンなんだ!

渡辺仁の階段といえば「原美術館」!

 そして、渡辺仁の階段の中で私が最も好きな階段が、東京・品川の原美術館(原邦造邸、1038年)にあるこの階段(↓)。2階から3階に向かう階段だ。

 「日本で最もエロチックな階段」と、勝手に認定している。

 そもそも、この建築は、階段以外も全体がエロチックで、ここで2016年に開催された「快楽の館 K 篠山紀信」というヌード写真展は、原美術館の企画展の中でも特に記憶に残る素晴らしさだった。私が前職時代に描いたイラストリポートは下記で今も見ることができる。
 
建築日和「渡辺仁VS. 篠山紀信」

 で、なぜこの話題を半沢直樹の1〜2話目でなく、今頃書いているかというと、原美術館が建物の老朽化により閉館になるからだ。昨日、9月19日(土)から始まった「光―呼吸 時をすくう5人」展が最後の企画展となる。

 入場は日時予約制。会期は2021年1月11日まで。詳細は公式サイトで確認いただきたい。

 今回は皆さんの想像を刺激するために、写真を使わず、すべて過去に描いたイラストで構成してみた。元の記事が掲載されている『プレモダン建築巡礼』は絶賛発売中。半沢直樹の階段に惹かれた人は、“プレモダン建築好き”かもしれないので、ぜひ下記をポチッとしてみていただきたい。(宮沢洋)

『プレモダン建築巡礼』アマゾンのページ