リレー連載「海外4都・建築見どころ案内」:米ニューヨーク×日江井恵介氏その1、ヘザウィック設計の人工島+工場跡地の再生、マンハッタンを望む2つのパブリックパーク

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今回から3回は、米国の大手設計事務所・NBBJのニューヨークオフィスに籍を置く日江井恵介氏に、ニューヨークで最も注目されるスポットを案内してもらう。初回は、ハドソン川沿いとイーストリバー沿いの2つの公共公園だ。まずはヘザウィックスタジオの設計で、一度は目にしたことがあろう「リトルアイランド」。2年ほど前にオープン、観光客やニューヨーカーの人気スポットになっている。(ここまでBUNGA NET編集部)

 ニューヨークの第1弾はニューヨーカーの憩いの場となっている2つのパブリックパークを紹介したいと思う。ニューヨークにはセントラルパークをはじめ大小様々な公園や広場が街なかにあり、特に夏になると大勢の人でにぎわっている。今回取り上げる2つの公園は、その中でも公園がある場所の特性をうまく生かしたり、歴史的な背景を踏まえながらもともとあった施設を再利用するなど、その場所のアイデンティティーを大切に計画されたものだ。

チューリップポットが人工島を支えるLittle Island(リトルアイランド)

 まずはマンハッタンのウェストサイドにあるリトルアイランド。その名前の通り小さな島のような公園はマンハッタンの西側ハドソン川に浮かぶ人工島で、ミートパッキングと言われるエリアに位置する。

 このエリアにはホイットニー美術館やチェルシーマーケットがあったり、多くのショップやレストランが点在したりしているお洒落なエリアである。またハイラインと呼ばれる使われなくなった高架鉄道跡を再利用した空中庭園の出発点もあり、常に多くの人が集まり観光客やニューヨーカーの人気スポットともなっている。

リトルアイランド。ここからは新ワールドトレードセンターや右手にニュージャージー側もよく見える(写真:以下も日江井恵介)

 リトルアイランドが完成したのは2021年の5月。ちょうど新型コロナウイルス渦の時期でオープン当初は入場制限をしていた。ニューヨークの冬は意外と長く、5月くらいからやっと暖かくなり春らしい季節なってくることもあり、この時期になるとみんな外に出たくてそわそわしてくる。私もすぐ見に行きたかったが、オープン当初の話題性もあり、なかなか予約が取れなかったことを覚えている(今は予約なしで公園に入ることができる)。

 この公園はヘザウィックスタジオによるもので、日本でも、11月開業予定の麻布台ヒルズの低層部を担当したトーマス・ヘザウィックの作品。まず特徴的なのはパーク自体を支える支柱。川の上に浮くようにデザインされており132個のチューリップポットと呼ばれるコンクリート製ピットの上にパークが設計された。

 パーク内は大きく3つのエリアに分けることができ、プレイグラウンドと呼ばれる広場的なエリア、芝生や植物が多く植えられている自然を感じられるエリア、様々なイベントに使える野外劇場がある。これらの3つのエリアはチューリップポットの高さが一つひとつ違うことで生まれる起伏をうまく利用して自然な形で区画されており、パーク自体に一体感が生まれるようにデザインされている。

いろいろな大きさのチューリップポットが公園の土台となっている

 公園そのものを持ち上げるというコンセプトはハドソン川にかつて多くあった桟橋の名残である既存の木製の柱をモチーフにしている。柱は今でもいろいろな所に点在しておりリトルアイランドの周りにもまだ残されている。実はこの木製の柱はハドソン川に生息する海洋生物の重要な生息地となり魚の保護にも役立っており、この地区は自然環境への配慮がしっかり成されている。

ニューヨークの川沿いでは昔の桟橋の名残が残っている所が多い
どんな海洋生物が生息しているかが分かるレリーフもある。タツノオトシゴも!

 公園は石や木でつくられた小道が島全体を縫うように配置されており、常に違った景色を見ることができる。所々にアート作品などがあり、公園を訪れる人たちを楽しませている。公園からはマンハッタンのスカイラインやニュージャージーの景色を楽しむこともできる。

 公園内には、700席の円形劇場があり、そこではコンサートやダンス、演劇、子ども向けのパフォーマンスなど、様々なイベントが行われている。この劇場は公園の端に位置し、周囲の緑に溶け込むようにデザインされているため、入り口からは見えないが、ハドソン川に広がるように配置されていて、ニュージャージー側に落ちる夕日が奇麗に見える。

パフォーマンスのない日でも、多くの人が椅子に座って休憩している
シアターはハドソン川に向かって大きく開くような配置となっている

 公園の中心には200人まで収容可能な野外ステージもあり、ここは芝生に座りながらゆっくりパフォーマンスを楽しむこともできるようになっている。色とりどりの日よけも設置されていて、パフォーマンスのない日でもテーブルに座ってご飯を食べたり、芝生でピクニックをしたりしている人たちが多くいる。

芝生に座ってピクニックをする人たち
天気の良い日は大勢の人でにぎわっている

 リトルアイランドはサステナブルな公園としての役割も果たしている。公園の設計は、植物と野生生物のための生息地をつくり出すために、ニューヨークの気候に適した100種類以上の木や植物が植えられたり、はじめにも少し触れたが、もともとあった木の杭はそのまま残すことで海洋生物の重要な生息地となったりと、魚を保護することにより、生態系の保全に役立っている。

 その結果、リトルアイランドは木々や花々、緑豊かな芝生など、様々な自然環境を提供し、都会のオアシスとして人々を楽しませるとともに、アートやコミュニティーを通して人が集まる場所を提供している。

使われなくなった施設を再生した新たな公共空間「Domino Park(ドミノパーク)」

 2つ目の公園はブルックリンのウィリアムズバーグにあるドミノパーク。ドミノパークは、イーストリバー沿いにかつて精糖工場として稼働していたドミノシュガーファクトリーの跡地につくられた公園だ。2018年に完成し、ニューヨーカーの新たな憩いの場となった。

 私がニューヨークに来た20年ほど前のウィリアムズバーグはまだ工業地帯の名残があり、あまり気軽に行く感じのエリアではなかった。しかし、アーティストやミュージシャンが集まるような場所がいくつもあり、ライブをよく見に行ったのを覚えている。

 その後、この地区の開発が進み、今ではアートギャラリーやショップ、カフェ、ライブハウスなど、地域全体がクリエイティブでエネルギーに満ちあふれたエリアになった。ドミノパークもその中心となり、アートフェアやコンサート、映画上映会などを行うことで地域コミュニティーとのつながりを深めている。

夏は子どもたちが噴水で楽しそうに遊んでいる

 公園のデザインは、JCFO(ジェームズ・コーナー・フィールド・オペレーションズ)。彼らはマンハッタンのウェストサイドにあるハイラインも手掛けたことで有名で、ドミノパークもハイラインと同様に使われなくなった施設を再利用して新たな公共空間を生み出すというサステナブルでニューヨークらしいプロジェクトだ。

 まず、注目されるのはやはり公園からの眺め。川越しに見えるマンハッタンのスカイラインやウィリアムズバーグブリッジがとても奇麗に見える。特に夕方からは時間がゆっくり流れ、マンハッタンをバックに夕日や夜景を楽しむことができる。また全長380メートルのArtifact Walk(アーティファクト・ウォーク)と名付けられた高架遊歩道もあり、そこからパーク全体を見渡すこともできる。

ブルックリンブリッジを見ながら夕暮れ時を楽しむ人々
アーティファクト・ウォークからはマンハッタンがよく見える

 公園内にはもともと砂糖工場であった歴史を感じられるようにいろいろな工夫がされている。例えば、”Sweetwater Playground”は工場の精製過程をテーマにしており、Sweetwaterは砂糖の精製プロセスで使われる言葉や、もともと工場で使われていた色を基調としている。遊具も工場で使われていたものを再利用するなど、子どもたちが遊びながら産業の歴史に触れることができるようにしてあるのが特徴だ。

日が落ちてきても多くの子どもが遊んでいる

 さらに、公園の中心には、もともと砂糖シロップを保存していた79個の巨大なシロップタンクを配置し、「シロップタンクガーデン」や「フォグブリッジ」などのパブリックアートも公園内に点在していて、こういった作品を見ながら散歩するのも気持ちがよい。

霧は約15分おきくらいに発生する仕組みになっている

 その他にもビーチバレーコートやドッグラン、ピクニックエリア、タコスタンドもあり、あらゆる年代の人々が楽しめるスペースがそろっているのがうれしい。今回週末にドミノパークを訪れたが、多くの人でにぎわっており、みんな楽しそうに公園で時間を過ごしていたのが印象的だった。

ドミノシュガーの建物をバックにビーチバレー
天気の良い日に外で食べるタコはやはりおいしい
マンハッタンに沈む夕日を見るのも楽しみの一つ
川側は遊歩道となっていて遠くに見える2本のクレーンがドミノパークの目印となる

 ドミノパークは、その場所の歴史と現代が交わるようにデザインされ、使われなくなった施設を再利用することで住人やコミュニティーがつながる場所を提供するという大きな役割を果たしている。ただの公園ではなく都市の再生と進化が感じられ、私たちの生活に価値ある場所と時間を提供してくれるという意味でパブリックパークの良い成功例ではないかと思う。 

 数ある公園の中で今回紹介したリトルアイランドとドミノパークはニューヨークでぜひ訪れてほしいパブリックパークである。(日江井恵介)

Little Island(リトルアイランド)概要
所在地:Pier 55 in Hudson River Park West 13th Street, New York, NY 10014
設計者:Heatherwick Studio 
完成時期:2021年
行き方:地下鉄A,C,E,L線、14 St / 8 Av駅下車徒歩10分

Domino Park(ドミノパーク)概要
所在地:15 River Street, Brooklyn, NY 11249
設計者:James Corner Field Operations
完成時期:2018年
行き方:地下鉄L線、Bedford Av(ベッドフォードアべニュー)駅下車徒歩15分

日江井恵介(ひえいけいすけ)
NBBJ アソシエイト。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、組織設計事務所KPF勤務を経て現在NBBJニューヨークオフィス勤務。プライベートでは、使わなくなった段ボールを再利用し、バッグや照明などを製作したり、1961年のキャンピングトレーラー、エアストリームの改装に取り組んだりしている。
https://instagram.com/keihiei
https://instagram.com/kihei.works

※本連載は月に1度、掲載の予定です。

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(写真:PAN-PROJECTS)