建築名所百景04:大津・琵琶湖南側──もうすぐ見納めの菊竹・西武大津店からI.M.ペイのモダン桃源郷へ

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 「次回は大津」と宣言してからだいぶ間が空いてしまった。大津を取り上げたかったのは、8月末で閉じてしまう建築があるからだ。菊竹清訓の設計で1976年に完成した「西武大津ショッピングセンター(現・西武大津店)」である。最寄駅は、大津駅ではなく、JR琵琶湖線・膳所駅もしくは京阪大津線・京阪膳所駅である。今回はまずここを見てほしいので、膳所(「ぜぜ」と読む)を出発点とする。

(イラスト:宮沢洋、以下も)

 駅から琵琶湖方向(北)に向かって7~8分歩くと、大通り沿いにひな壇状の白い建築が現れる。上のイラストは、ひな壇形状とともにこの建築を特徴付ける外部階段。菊竹が大規模商業施設の避難安全性を「見える化」したもので、巨大な彫刻作品のよう。

 所有権はすでに長谷工コーポレーションに移っており、8月31日で閉店となる。まだ閉店後の計画は発表になっていないが、これが見納めと考えて、近くにお住いの方はぜひ8月中に見ておくべきだろう。

 内部空間の目玉は7階の吹き抜けだ。ネタバレになるが、最後なので教えてしまおう。この変な形の吹き抜けは、実は、琵琶湖の形を模している。これは「建築巡礼」の取材で知った(日経アーキテクチュア2020年6月11日号「竜神に守られた百貨店」)。そして、7階にある特設会場では現在、「西武大津店 44年のあゆみ展」を開催中。そしてそして、この閉幕展の「思い出グッズコーナー」に、建築巡礼の記事が展示されているというではないか!

よく見ると、日経アーキテクチュアの後ろには、書籍『菊竹清訓巡礼』も!(写真:読者提供)

◆西武大津店
設計:菊竹清訓/1976年
滋賀県大津市におの浜2丁目3−1

 西武大津の話だけで終わってしまいそうなので、後ろ髪を引かれつつ、次の目的地「大津プリンスホテル(現・びわ湖大津プリンスホテル)」へ。

 その前に、西武大津店のはす向かいにある3階建ての商業施設「TOKIMEKI」は高松伸氏の設計なので、これもチラリと見ておきたい。

◆TOKIMEKI
設計:高松伸建築設計事務所/2003年
滋賀県大津市馬場1丁目7-12

 ここから、プリンスホテルのある北東方向に向かうと、やはり高松伸氏が設計した「LINKS」もある。これもチラ見しておきたい。

◆LINKS
設計:高松伸建築設計事務所/1990年
滋賀県大津市西の庄19-10
参考:http://www.links-home.co.jp/realestate/manage/?p=30

 そして、丹下健三設計、びわ湖大津プリンスホテルに到着。ああ、これは西武大津に比べるとシンプルで描きやすい。でも、これもまた美しい。まさにランドマーク。今年は中止になった琵琶湖花火大会をイメージして描いてみた。

◆びわ湖大津プリンスホテル
設計:丹下健三・都市・建築設計研究所、鹿島/1989年
滋賀県大津市におの浜4丁目7−7

大津周辺には有名建築が集積

 ここからは西の大津方面、さらに琵琶湖の北西方向にむかって歩く。こんなにたくさんの建築を見ることができる。

◆旧大津公会堂
設計:大津市土木課/設計:/1934年
滋賀県大津市浜大津1丁目4-1
参考:http://www.kyu-otsukoukaidou.jp/

◆滋賀県庁舎
設計:佐藤功一/1939年
滋賀県大津市京町4丁目1-1

◆琵琶湖ホテル
設計:シーザー・ペリ(デザイン監修)、竹中工務店/1998年
滋賀県大津市浜町2−40

◆日本キリスト教団大津教会
設計:ウィリアム・メレル・ヴォーリズ/1928年
滋賀県大津市末広町6−6

◆大津市庁舎
設計:佐藤武夫/1967年
滋賀県大津市御陵町3−1

◆旧琵琶湖ホテル本館(現・びわ湖大津館)
設計:岡田信一郎/1934年
滋賀県大津市柳が崎5−35

 この建築密集地帯で何をイラストに描こうかと迷ったのだが、これにした。「滋賀県立劇場 びわ湖ホール」。

 佐藤総合計画の設計だ。佐藤武夫がルーツということもあって公共のホールをたくさん設計している佐藤総合計画だが、この建築は近年(と言っても20年以上前だが)の代表作ではなかろうか。陸側から見ると城郭風で、湖側から見ると流線形を強調したマリンっぽいデザイン。二度楽しめる。

◆滋賀県立劇場 びわ湖ホール
設計:佐藤総合計画/1998年
滋賀県大津市打出浜15−1
参考:https://www.axscom.co.jp/project/no01818/

「MIHO MUSEUM」は内部がすごい

 ここからは折り返して南へ。大津駅周辺でレンタカーを借りて移動するのが便利だろう。まず、現代建築ではないが、石山寺の多宝塔(国宝)は必見。最も古く、かつ「最も美しい多宝塔」とも言われる。

◆石山寺多宝塔
1194年(鎌倉時代)
滋賀県大津市石山寺1丁目1−1

 ここで湖に背を向け、「MIHO MUSEUM」に向かおう。

 途中に、日建設計が設計した「滋賀県立近代美術館」があるが、残念ながら2017年からリニューアルのため長期休館中。SANAAの設計で増築部が加わる予定だったが、施工入札で不落が続き、白紙に。コロナもあって、今後どうなってしまうのか、心配だ。

◆滋賀県立近代美術館
設計:滋賀県土木部建築課、日建設計/1984年
滋賀県大津市瀬田南大萱町1740−1

 そして「MIHO MUSEUM」 。コロナ拡大防止のため3月からずっと休館していたが、8月12日から再開した。ひと安心。

 設計は、モダニズムの巨匠、イオ・ミン・ペイ(1917~2019年)。この建築は本当にすごい。外観写真を見ると神社みたいな外観で、「日本におもね過ぎでは…」と思ってしまうが、この建築の真髄は内部だ。長期天気予報を見て、ぜひ晴天の日に見てみたい。床に落ちる影、自然と一体化する透明な空間。「桃源郷」のイメージと言うのも大袈裟ではない。

◆MIHO MUSEUM
設計:イオ・ミン・ペイ、紀萌館設計室/1997年
滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300

 この美術館は、神慈秀明会の施設。ペイが設計した「カリヨン塔」や、ミノル・ヤマサキが設計した「教祖殿」も西方向にあるはずなので(一般見学は不可)、大開口から山の中を探してみよう。

◆神慈秀明会カリヨン塔
設計:イオ・ミン・ペイ/1990年

◆神慈秀明会教祖殿
設計:ミノル・ヤマサキ/1983年
滋賀県甲賀市信楽町神苑2
参考:https://www.shumei.or.jp/art1.html

子ども連れは琵琶湖博物館、大人だけなら佐川美術館

 ここから再び琵琶湖方向へ。琵琶湖の南東岸に立つ「滋賀県立琵琶湖博物館」は日建設計の設計だ。「博物館」といっても、水族館機能が大半なので、子どもも楽しめる。

◆滋賀県立琵琶湖博物館
設計:日建設計/1996年
滋賀県草津市下物町1091 

 琵琶湖博物館から護岸をもう少し北に行くと「佐川美術館」があるので、今回の旅はここで締めよう。これぞ「竹中の設計・施工!」と言えそうな、精緻なディテール。ここは大人の建築だ。

◆佐川美術館
設計・施工:竹中工務店/1998年
滋賀県守山市水保町 北川2891
参考:https://www.sagawa-artmuseum.or.jp/outline/

 佐川美術館のある滋賀県守山市には、隈研吾氏が設計した市立図書館が2018年にオープンしている。隈氏らしいスギ板を多用した建築。構造は鉄骨造。

◆守山市立図書館
設計:隈研吾建築都市設計事務所/2018年
滋賀県守山市守山5丁目3−17
参考:https://www.lmaga.jp/news/2019/05/64891/

 守山市のさらに先(北)には、近江八幡市があって、ヴォーリズ建築やら藤森建築やら盛りだくさんなのだが、それはまた機会を改めて。

 さて、壮大な全国建築MAPづくりは、こんな感じ(↓)。今回分は、琵琶湖の南側辺りを拡大して見ていただきたい。

 紫色のピンをクリックすると、下の画像のようにイラストが見られる(はず)。設計者などの情報はすべてのピン(紫・オレンジとも)に入れてある。いつか全国くまなくピンが立つ日を夢見て、次回も頑張りたい(宮沢洋)

前回の記事:建築名所百景03:釧路──明日から「毛綱毅曠」展!“もづなパワー”にどっぷり浸る