夏の建築展03:早稲田の建築家展へ急げ、木製模型の情念が気づかせる建築家たちの真意

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 弾丸建築展巡り3件目は、国立近現代建築資料館のある湯島から千代田線と東西線を乗り継いで早稲田へ。私(宮沢)の母校、早稲田大学早稲田キャンパスにある「會津八一記念博物館」で開催中の「早稲田建築 草創期の建築家展」だ。会期は6月2日〜7月15日。すでに半分が過ぎてしまったので、すぐに予定表に書き込んだ方がいい。この展覧会は早稲田関係者はもちろん、“普通に建築が好き”な人にとってもきっと面白い。

(写真:宮沢洋)

 実行委員会は早稲田大学創造理工学部建築学科の古谷誠章・藤井由理研究室。以下は建築学科のサイトに載っていた内容紹介だ。

 展覧会「早稲田建築 草創期の建築家展」を早稲田大学會津八一記念博物館で開催します。(中略)

 主な展示内容としては、建築学科初代主任教授を務めた佐藤功一(1878-1941)、内藤多仲(1886-1970)、今和次郎(1888-1973)らの教授陣、初期の卒業生である村野藤吾(1891-1984)、今井兼次(1895-1987)、佐藤武夫(1899-1972)ら、早稲田建築の草創期を彩った建築家、建築教育者に焦点を当てて、その足跡とさらにその後進にあたる建築家群像を、稲門建築会「稲門建築ライブラリー」、および建築学科アーカイブズの所蔵資料を中心に、他大学などが所蔵する資料を加えて展観します。あわせて、展覧会場である今井兼次設計の早稲田大学旧図書館をはじめとして、これらの建築家が設計した早稲田大学各キャンパスの建築の模型を新たに制作し、公開します。

 最後にさらっと書かれているだけだが、「模型を新たに制作し、公開します」がすごい。現建築学科の研究室が総出で模型を制作している。ほとんどが木製だ。会場内は「模型のみ撮影可」(展示資料や説明文は撮影不可)なので、模型でその雰囲気をお伝えする。

会場の旧図書館は意外なあの人の設計

 まずは会場の説明も兼ねてこの模型から。

早稲田大学図書館 模型(1:50)/早稲田大学古谷誠章・藤井由理研究室/木/2022年(冒頭の写真も同じ)

 「早稲田大学旧図書館」だ。「2022年」というのは模型を今年つくったという意味で、竣工は1925年。設計者は誰だか分かるだろうか。なんと今井兼次(1895~1987)だ。教師であった内藤多仲に推薦され、内藤とともに設計した。完成時30歳。若い頃はこんなすっきりしたデザインだったのか、と驚かされる。

 この建物は、私が在学していた頃には図書館だったが、今は「會津八一記念博物館」という展示施設となっている。本展はその2階が会場だ。現在は樹木に囲まれて建物の全体像がよく分からないので、模型で見ると若々しいエネルギーを感じる。

 その今井兼次を抜擢した内藤多仲(1886~1970)のコーナーにはこの模型が。

東京タワー(日本電波塔株式会社鉄塔) 模型(1:200)/早稲田大学渡邊大志研究室/木/2022年

 誰もが知る東京タワー(1958年)。今まで数多くの東京タワーの模型を見たが、この木製模型の細かさたるや! 一体どうやってつくるのか。きっと内藤多仲先生もお喜びであろう。

あの名女優が継承した「ヴィラ・クゥクゥ」も

 吉阪隆正展(既報)が東京都現代美術館で開催された吉阪隆正(1917年~1980)は、それとの差別化を狙ったのか、大学セミナー・ハウスでも吉坂邸でもなくこの模型。

ヴィラ・クゥクゥ 模型(1:50)/早稲田大学古谷誠章・藤井由理研究室/木/2022年

 模型で見ると、荒々しさが薄れてかわいい! 「ヴィラ・クゥク(Villa Coucou)」(1957年)といえば、女優の鈴木京香さんが継承したことでも話題になっている(参考記事こちら)。

 今はなき早稲田の建築群にもOBとしてはグッと来る。その1つがこれ。

戸山キャンパス 31・33号館 模型(1:100)/早稲田大学小林恵吾研究室/木/2022年

 村野藤吾(1891~1984)が設計した早稲田大学文学部校舎(1962年)。低層の31号館(手前)は今も残るが、高層の33号館は建て替えられた。階段室とか、カッコよかったなあ。

あのビルは武基雄の設計だったのか!

 そして、本展で一番心を引かれたのはこの模型。武基雄(1910~2005)の設計だ。

第二学生会館模型(1:50)/早稲田大学吉村靖孝研究室/木/2022年

 多くの精緻な模型の中でも、ただならぬ情念を漂わせるこの模型。アフトフレームがかっこいい。この建物、どこかで見たことがある……。あ、あの正門近くのバス停の隣に立っていたあやしげな建物! 1965年竣工の「第二学生会館」だという。在学時の私は、「学生会館」という名前だけで怖くて近寄らなかった(2002年に解体)。あれって、武基雄の設計だったのか。知らなかった。

 模型の脇に書かれていた説明文によると、外柱に架かる梁は2層おきで、その中間の床は吊り構造だったという。なぜそんな構造かというと、施工期間が10カ月と短く、「リフトスラブ工法」なるものが採用されたからだという。具体的なつくり方が読んでもよく分からなかったのだが、無足場で床を吊り上げていく考え方だったらしい。説明文の写真撮影が禁止なので、きちんと説明できず、大変申し訳ない。

 あのあやしげなビル(本当に近寄りがたかった)が、そんな挑戦的な構法によって実現したものであったとは(そもそも武基雄の設計だったとは)、ほとんど誰も知らなかったのではないか。それに気づかせてくれたこの模型に感謝したい。

 この模型、よく見ると、木口が黒く焼かれている? あるいは塗ったものかもしれないが、こうしたひと手間をかけたことで、何やら情念を感じさせる模型に仕上がったと思われる。(※記事公開後に関係者に聞いたところによると、木口の焦げ目は木をレーザーカッターで切るとできるらしい。ICT的情念?)

 会場の會津八一記念博物館の近くには、隈研吾氏の設計で昨年完成した「早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)」もあるので(リポート記事はこちら)、遠方からでも見に行く価値はある。そちらは事前予約制だが、少し待てばすぐに入れると思う。

 ところで、私は早稲田OBだが、建築学科卒ではない(政治経済学部卒)。それでも以前に『早稲田学報』の依頼で、「ワセダ建築探訪」というものを描かせていただいたことがある。この記事もそうだが、私がもし建築学科卒だったら、こんなに伸び伸びとは書けないと思う(笑)。 「ワセダ建築探訪」は一部が今もWEBで見られるので、ご興味のある方はこちらへ(宮沢洋)。

■早稲田建築 草創期の建築家展
会期:2022年6月2日(木)〜7月15日(金)10:00-17:00 水曜日休館
場所:早稲田大学會津八一記念博物館 2階 グランドギャラリー
入館料:無料
共催:早稲田大学創造理工学部建築学科、早稲田大学會津八一記念博物館、稲門建築会、早稲田大学理工学術院総合研究所、早稲田大学建築学研究所
問い合わせ先:早稲田建築 草創期の建築家展 実行委員会 (古谷・藤井研究室内)、03-5286-3236