日曜コラム洋々亭40:復活し始めた「子ども建築体験WS」、大成建設は水族館、日建設計はLGBTをテーマに開催

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 感染者数は高止まりが続いているが、今年の夏休みはどうやら大きな行動制限はなしで過ごせそうだ。この2年間、全く耳にしなかった、子どもたちを集める建築イベントも耳にするようになり、その2つに行ってみた。

「東京スカイツリータウン 建設の秘密展」の会場風景(写真:宮沢洋、以下も)

 1つは、東京スカイツリータウン®で8月5日(金)から始まった「10周年特別企画 東京スカイツリータウン 建設の秘密展」。これは大林組と大成建設が協賛したイベントで、2022年8月5日(金)~9月4日(日)までの1カ月間、3階のソラマチ9番地特設会場で、こんなパネルが展示されている。

 右側が大林組の展示で、左側が大成建設。大成建設の方は、そう、私(宮沢)が近刊『イラストで読む建築 日本の水族館五十三次』の冒頭に描いた「プロに聞きました!水族館の仕組みと工夫20」の一部だ。

 なんだ、本の宣伝か。それもあるが、ここからが本題だ。

すみだ水族館

 大成建設は東京スカイツリータウンにある「すみだ水族館」の設計と施工を担当した(施工は東武谷内田建設とのJV)。すみだ水族館は、海に面していない。ここに海水を頻繁に運ぶのは大変なので、水槽内の「完全人工海水化」を実現した。

 これは同じく大成建設が設計と施工に参加している「京都水族館」(2012年)に次ぐものである。大成建設は知る人ぞ知る“水族館にめっぽう強い建設会社”なのである。

人工海水を実際につくろう!

 突然、女性の写真が現れて誰?と思ったかもしれないが、展示期間の冒頭の2日間、大成建設による親子向けのワークショップ(WS)が行われた。以下、公式サイトより。

■すみだ水族館の海水のヒミツ(大成建設株式会社)
海に面していないすみだ水族館で、魚たちに必要な海水はどこからくるのか? そんなヒミツを紐解きます。
日時:8月5日(金)、6日(土)
➀11:00~12:00 ②14:00~15:00
対象:小中学生 20名程度/回
場所:3F9番地 特設会場

 説明しているのは、人工海水をつくっている株式会社日本海水のスタッフで、彼女が10分ほど人工海水の組成などについて説明した後、実際にコップの中で人工海水をつくってみるワークショップだ。塩と各種ミネラルを調合した“海水の素”をビーカーの水に入れて、ぐるぐるかきまぜ(結構溶かすのが大変そう)、前と後で比重の変化を比較するという流れだ。

 私は事前に「人工海水をつくる」ということを聞いていたので、勝手にこんな流れを想像していた。それぞれの子どもが塩や各種ミネラルを天秤で測って水に溶かし、水質成分検査機で測定して、合格したものは実際に中に海水魚を泳がせてみる──。まあ、学校の特別授業ならそのくらいやれそうだが、商業施設のイベントでは、結果に優劣がつくのはよろしくないのはわかる。

 簡単すぎないかとは思ったものの、子どもたちは帰りにお土産の塩をもらい、うれしそうに帰っていった(知らなかったが日本海水は食塩やふりかけもつくっている)。

公式サイトのキャプチャー

 ちなみに、8月10日、11日には大林組のワークショップが行われる。それはこんな内容だ。

■スカイツリーチャレンジ2022(株式会社大林組)
みんなの大好きな「ある食材」でタワーを作ろう!
日時:8月10日(水)、11日(木祝)
①11:00~12:00  ②14:00~15:00
対象:小中学生 20名(10チーム)程度/回(※参加人数に限りがありますので、先着順とさせて頂きます。予めご了承ください)
場所:3F9番地 特設会場

 「ある食材」って多分、イタリア料理のあれだろうなあ。確かに、タワーをつくってみたくなる。お子さんのいらっしゃる方は参加してみては。

日建設計のワークショップは配られたものにびっくり

 私が見に行ったもう1つのワークショップは、8月3日に日建設計が開催した「夏のリコチャレ2022 多様性に応える『だれもが使いやすいトイレ』を考えるワークショップ」。こちらは、「人工海水をつくろう」とは対照的に、私の想像を超えるハイレベルな流れだった。

 まずは、日建設計のサイトから開催主旨を引用する(太字部)。

 日建設計は、理工系人材育成を目指す、内閣府男女共同参画局「夏のリコチャレ2022~理工系のおしごと体感しよう!」のイベントに賛同し、ワークショップを開催いたします。

 人々の生活の仕方(=ライフスタイル)の多様化はコロナ禍を経て一層進んでいます。ビルや公共空間の利用者の様々なニーズに対し、建築空間や都市空間をどうすべきか悩みを抱える方々も少なくありません。そのような社会課題に応えようと、日建設計では自社の執務空間を実験の場と捉え、働く人にとっても、また環境に対しても、より良いオフィスのあり方はどのようなものか、様々な観点から考えています。

 そして、その中の一つに、新しい時代に合わせたトイレを考えるというテーマがあり、年齢、国籍、障がい、ジェンダーなど、様々な個人、個性に対して、誰もが心地よく感じるトイレを目指しています。今回のイベントでは、私たちが実際の仕事で行っているプロセスの一部を体験していただき、皆さんの学校に新たに「だれもが使いやすいトイレ」を設けることになった場合について一緒に考えます。ぜひご参加ください。

会場はパレスサイド・ビルディングにある日建設計竹橋オフィスのNSホール

イベント概要
開催日時:2022年8月3日(水)13:00~17:00(受付や休憩時間を含む)
会場:日建設計 東京・竹橋オフィス(東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイド・ビルディング8F)
対象者:中学生、高校生 ※性別は問いません。
参加費:無料 ※交通費は各自でご負担をお願いいたします。
定員:20名 ※応募者多数の場合は先着順とさせていただきます。
イベント内容:テーマ:あなたの学校に「だれもが使いやすいトイレ」をつくるなら~年齢、国籍、障がい、ジェンダーなど多様性からトイレのデザインを考える~
内容:
(1). 日建設計で働くメンバーより設計の仕事の魅力をご紹介します。トランスジェンダー当事者でもあるコンサルタントの体験談も踏まえた多様な観点でのお話し予定です。
(2). 学校に作る「だれもが使いやすいトイレ」のデザインを題材にしたワークショップを行います。アイデアについて発表会や意見交換も行います。

 私はこの説明を読んで、「工作型なんだな」と思っていた。講師の話を聞いた後、自分の考える模型をつくって、その後でそれぞれについて議論を交わす。そんな流れを想像していた。

 驚いたのは、子どもたちに配られたのが、模型材料ではなく、方眼紙だったこと。ひえーっ、さすが設計の会社!!

 私は大学生になるまで、方眼紙というものを見たことがなかったように思う。自分が中高生だったら、あの升目を見た時点で思考が止まってしまったかもしれない。

 けれども、見ていると子どもたちは、さほどひるんだ様子もなく、方眼紙に絵を描く。一部の子どもはまさに図面を描いていた。

 そして、もう1つ、自分が中高生だったら無理だったな、と思ったのは、発表。面白い案が描けたとしても、私には同世代の前で論理的に発表するなど、とても無理だった。でも、見ていると、みな、憶することなく発表している。さすが、日建設計のイベントに応募する子どもたちは違う。あるいは、今の子どもたちは、40年前よりワークショップ慣れしているのか?

 そもそも「多様性」というテーマが、ものづくりのワークショップには相当ハイレベルだ。多様性の重要性は分かったとしても、それをどう形の面白さに落とし込むか…。このテーマに面白さは必要ないと言われそうだが、やはりクリエイターを目指す原体験は面白さだろう。

講師は日建設計新領域開拓部門NADの4人で、その1人が写真左の畑島楓氏。「サリー楓」としてダイバーシティやGSMに関する講演に登壇するなど、トランスジェンダーの当事者としての活動も行っている

 そんな中で、私が強く惹かれたのがこの子の提案。

 あえてトイレブースの手前に大きな交流スペースを設けて、多様性の意識差自体をなくしていこう、ということのようだ(多分)。これ、外観のポイントにしたらすごくかっこいい。ナイスアイデア!

 「リコチャレ」は内閣府男女共同参画局が中心となって行っている取り組みで、「女子中高生・女子学生の皆さんが、理工系分野に興味・関心を持ち、将来の自分をしっかりイメージして進路選択(チャレンジ)することを応援する」もの。日建設計がこれに参加するのは初めてという。それでも中高生にこんな高度な提案ができると確信しているところが、日建設計らしいと思う。日建設計という会社は世界最大級の組織設計事務所だが、“個人の能力”をとても信じ、個人の集合意思で動いている(トップダウンが大嫌いな)ちょっと変わった会社だ。あ、ちなみに私は去年、『誰も知らない日建設計』という本を書きました。

 というわけで、今後、子ども向け建築体験イベントを考えている人がいたら参考にしてほしい、両極の2つのイベント報告であった。(建築学会とかで、こういうデータをまとめればいいのに…)

 そして建築の場合、イベントに参加せずとも、「実物を見る」という大きな体験がある。そこが多くの理工系領域と違うところだ。この夏はぜひ、「水族館」を候補に加えてほしい。しつこい宣伝ですみません!(宮沢洋)

東京スカイツリータウンの三省堂(2階)では、一番目立つところで「おすすめ」に! ありがとうございます!