葛西臨海水族園「陳情採択」受けJIAが現実路線へ、水槽にこだわらず「ゲート」に

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 葛西臨海水族園の保存活用問題がこんなに“前進”していたことを、この会見に出るまで知らなった。日本建築家協会(JIA)が12月17日に東京都庁記者クラブで開いた会見だ。

東京都庁記者クラブの会見場にて。前職ではしばしば足を運んだ会見場だが、 BUNGA NETの取材で足を踏み入れたのは初めて。手前が今回のメインテーマであるJIAの提案資料(写真:宮沢洋、以下も)

 結論から言うと、現施設の「活用」(機能保存ではない)を要望した陳情が東京都議会で「採択」され、それを受けてJIAが、従来の「水族館機能の全面保存」から「新設水族園の入り口としての活用」へと舵を切った、という会見だ。

 谷口吉生氏の設計で1989年に完成した葛西臨海水族園は、老朽化を理由に隣地への移転が検討されている。下の資料は、会見で配られた東京都の検討資料だ。JR葛西臨海公園駅に近い青枠の四角の部分に、PFIで新施設を建設することが検討されている。

会見で配られた、現状の都の検討イメージ

 会見には、六鹿正治JIA会長、安田幸一JIA環境会議委員、元・谷口建築設計研究所所員の村松基安氏が登壇。JIAが都議会に提出した陳情が採択されたことを報告したうえで、「葛西臨海公園水族園とグリーン・リカバリー」と題した提案資料について説明した。

学会の陳情は不採択でJIAはなぜ採択?

 会見ではさらっと説明されただけだったが、まず、「陳情が採択された」ことが大ニュース。過去に、日本建築学会などが提出した陳情が「不採択」となっていたからだ。全く知らなかったが、この採択は2カ月前の10月8日の第3回都議会本会議でなされていた(NETで調べてもそれらしきニュースは見当たらなかった…)。

 都議会事務局に確認したところ、JIAの陳情は3月に都議会2020年第1回定例会で受理され、第2回までは継続審議扱いとなったが、第3回定例会で「意見付き採択」となった。

会見で説明する六鹿正治JIA会長(左)と安田幸一氏(右)

 陳情の件名は「葛西臨海水族園の更新に向けた事業計画に関する陳情」。内容(願意)は、「葛西臨海水族園の更新に向けた事業計画に、既存施設の保存及び活用を組み込んでいただきたい」というもの。陳情の理由は以下のようなものだ。

 過去20年ほどの間に、都内に現存する昭和初期の貴重な建造物である三井本館、明治生命保険相互会社本社本館、髙島屋東京店などの保存及び活用が実現に至った。
 昭和だけでなく、平成も含めた過去の貴重な建造物を令和における最新のまちづくりにいかすことは、環境的豊かさの増幅、記憶の継承、文化的厚みの維持向上などの観点から、都民はもちろん日本国民にとっても大変重要なものであると考えている。
 日本建築家協会は、既に令和元年12月に都知事に対し、葛西臨海水族園の更新に向けた事業計画の中に既存施設の保存及び活用を組み込むことを要望している。
 都は、既存施設が、多くの都民を始め海外の人々にまで称賛されていることを十分に認識し、機能の変更を伴う場合であっても、必ず新しい環境を創造する中でいかすような形で保存し、活用すべきである。
 日本建築家協会は、都が、近現代の名建築を新しいまちづくりの中にいかしつつ、次の世代に確実に継承していく方針を一貫して進めていくことを力強く支持する。

 この陳情を、都議会は「趣旨にそうよう努力されたい」という「意見」を付けて採択した。「努力されたい」というのは、議会から行政(東京都)に対してのメッセージだ。これで残ると決まったわけではないが、保存活用派にとっては大きな前進だ。

 なぜ日本建築学会の陳情は不採択で、JIAは採択なのか。会見後に村松基安氏に尋ねると、「建築学会の陳情は、水族館機能を含む全面保存を求めていた。JIAの陳情は、水族館の機能の継続には言及せず、保存と活用を求めたので、採択されたのだろう」と解説してくれた。

水槽にはこだわらず、「ゲート」に

 今回の提案書「葛西臨海公園水族園とグリーン・リカバリー」は、陳情採択を受けて、都(行政)へのメッセージとして発表したもの。採択に至る経緯を踏まえ、水族館機能の継続にはこだわらず、「新水族園の入口として東京から世界につながる水と環境のゲートに」とアピールしている。

 具体的な内容は下記だ。

・30余年、6000万人超に愛されてきた水族園は社会的資産と考えてください
・東京が世界に誇る環境再生の象徴として既存水族園を保存再生してください
・東京から世界の海と環境につながる入口として既存ガラスドームと空の広場をとらえ、新水族園の入口としてつないでください
・この考え方(上記)をPFI事業の与条件に加えてください
・ポストコロナ時代の、密を避けた施設とするために、既存水族園の建築躯体と新水族園の機能的な連携をはかり、余裕のある空間として永く使ってください
・2050年ゼロエミッション東京戦略の政策に併せ「海洋環境学習」拠点の機能を持たせてください

 水槽はなくていい、と書いているわけではないが、これまでの「水族館としての延命が大前提」の姿勢と比べると、現実路線への大転換だ。賛否を呼ぶかもしれない。  

もう一度、現状の都の検討イメージ

 この記事を書いている宮沢は、誰にも頼まれずにこんな記事(↓)を書いてしまうほど、葛西臨海水族園の大ファンである。

4月19日は「飼育の日」、葛西臨海水族園を写真32枚で私的バーチャルツアー(2020年4月18日公開)

 そんな長年の葛西ファンの1人として、今回のJIAの軌道修正にはエールを送りたい。理由は書くと長くなり過ぎるので、改めて「日曜コラム洋々亭」で。(宮沢洋)

日曜コラム洋々亭25:現代建築に「保存」という言葉はふさわしいか──葛西臨海水族園問題に思う