建築の愛し方11:わずか15年で九州一の“建築天国”をつくり上げた仕掛け人──大分県竹田市の首藤勝次市長

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 九州の現代建築の聖地、大分県竹田(たけた)市をご存じだろうか。竹田は名湯・長湯温泉があることで有名な地域なので、聖地よりも“天国”の方がしっくりくる。

(写真:宮沢洋、以下も)

 その建築天国を象徴するのがこれ(↑)だろう。藤森照信氏の設計で2005年に完成した「ラムネ温泉」。温泉ツウが知るのみだった長湯温泉を、「建築ツウは誰でも知っている」に書き換えた建築だ。

 ラムネ温泉をはじめとする竹田市の建築群を生み出した仕掛け人が首藤勝次 (しゅとうかつじ)市長である。その首藤市長が3期12年の任期を全うし、次の選挙(2021年4月)には出ないことを明らかにした。建築メディアにとっては“恩人”ともいえる首藤市長に「ご苦労さまでした」を言うために、竹田市に行ってきた(もちろんこのためだけではないが…)。

 市長は快くインタビューに応じてくださった。

 話をうかがう前に、竹田市がどんなに建築天国なのかを写真で紹介しよう。訪れた日はあいにく小雨交じりだったので、実物の魅力は2割増しで想像していただきたい。

藤森照信氏の傑作「ラムネ温泉」へ

 まずは、記事冒頭に名前を挙げた「ラムネ温泉」へ。竹田市北部(由布市との間)にある長湯温泉に、2005年に完成した。首藤市長が竹田市長に初当選したのは2009年(平成21年)4月なので、完成はその前になるが、大分県議会議員だった時代に計画推進の中心になった。藤森照信氏に設計を頼みたいと東京までお願いに行ったのも首藤市長だ(発注者は有限会社ラムネ温泉倶楽部)。

竹田市直入町大字長湯7676-2

 ちなみに「ラムネ」というのは、この地が「世界屈指の炭酸泉」といわれる温泉エリアで、湯につかると肌にラムネのような泡がつくからだ。

 焼きスギとしっくいの外壁も味があるが、オカメザサの海のようなランドスケープも実にいい。藤森建築ベスト5に入る名作だ。

塩塚隆生氏設計の「竹田市立図書館」へ

 ラムネ温泉は大人気となるも、その人気はしばらくの間、長湯温泉という「点」にとどまっていた。そこから竹田の市街地には車で40分ほどかかる。竹田の市街地は、瀧廉太郎が作曲した歌曲「荒城の月」のモチーフとなったことで知られる岡城があり、風情のある城下町だ。それでも、長湯温泉からさらに市街地を巡るという観光客は限られていた。

 そんな竹田の中心部に2017年、竹田市立図書館が完成したことで、面としての「建築天国」化が始まる。ここからは首藤市長時代の事業だ。

竹田市竹田1959-4

 竹田市立図書館の設計は、大分市を拠点に活躍する建築家の塩塚隆生氏(1965年生まれ、塩塚隆生アトリエ代表)。天井や壁をメッシュ状の面で構成。ハイサイドライトから採り入れた光を柔らかく拡散する。曲線状の本棚がひと目を気にしない居場所をつくる。日本建築学会作品選集・作品選奨や、日本図書館協会建築賞を受賞した。

 ここから、「1年1件以上」のハイペースで話題の建築が生まれ続ける。

香山壽夫氏設計、「グランツたけた」へ

 2018年には市中心部から北西方向にやや離れた川沿いに、香山壽夫氏の設計による「竹田市総合文化ホール グランツたけた」がオープン。設計は大御所の香山壽夫氏(香山壽夫建築研究所、東京大学名誉教授)だ。これは私(宮沢)が日経アーキテクチュア編集長時代に同誌で取り上げた。

竹田市大字玉来1-1

 ローコストの音楽ホールで、ホール以外は木造にして、木の回廊により各施設をつないでいる。ホールは天井を張らずに気積を大きく取った。

 今回の首藤市長のインタビューはここの多目的ホールで行った。 

坂茂氏設計、「クアパーク長湯」へ

 再び長湯温泉に戻り、2019年に坂茂氏(坂茂建築設計)の設計でオープンした「クアパーク長湯」へ。坂氏らしい木造架構で、屋根面は、騎馬戦の組み手のような「レシプロカル(相互依存)構造」と呼ばれる構造を採っている。

竹田市直入町大字長湯3041-1

 私が行った日には、コロナのため休館中だった。クアゾーンが見られず残念。

隈研吾氏設計、「竹田市城下町交流プラザ」へ

 そして2020年には、隈研吾氏の新作が立て続けに2件オープンする。「竹田市城下町交流プラザ」と「竹田市歴史文化館・由学館」だ。

 「竹田市城下町交流プラザ」は、市中心部のさらに真ん中にある屋外ステージだ。公共駐車状の脇にあり、観光の出発点となる場所でもある。コロナ禍の4月1日にオープンした。

竹田市大字竹田町487-1

 地名のとおり、竹田市は孟宗竹などの竹の産地。竹工芸も盛んだ。ステージ庇を支える鉄骨架構に、竹の立体格子をからめている。

隈研吾氏設計、「竹田市歴史文化館・由学館」へ

 半年後の2020年10月24日には、交流プラザから徒歩10分ほどのところに「竹田市歴史文化館・由学館」がオープン。2016年の熊本地震で被災した竹田市立歴史資料館と市民ギャラリー水琴館を建て替えた施設。道路側の外壁が一面、竹によって覆われている。

竹田市竹田2083

 私が行ったときには「開館記念特別展② 隈研吾の建築×竹田の建築」(2021年1月22日~3月14日)が開催されていた。

 展望塔のような屋外エレベーターを上ると、江戸時代の文人画家・田能村竹田(たのむらちくでん)の邸宅「旧竹田荘」(国史跡)がある。

 市街地だけなら1日で回れるが、長湯温泉で湯に浸かりたいなら、1日では厳しい。コロナがひと段落したら、ぜひ1泊してゆっくりしていただきたい。

 そんな建築天国をつくり上げた首藤市長にこれまでの話を聞こうというわけだが、ここらでひと休みが必要と思うので、インタビューは後編をお楽しみに。(宮沢洋)

後編↓
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