建築系雑誌読み比べ!03:a+u、建築技術、ディテール─「技術」という宝の山

Pocket

 自粛期間向け・短期集中連載「建築系雑誌読み比べ!」の第3回である。今回レビューするのは「a+u」、「建築技術」、「ディテール」の3冊だ。

 これを書いているのは前・日経アーキテクチュア編集長で今はフリーの宮沢である。建築系雑誌12冊を3冊ずつグルーピングし、(1)ほかの雑誌にない独自性、(2)なるほど!と感心した伝え方、(3)編集部へのエールの3項目でレビューしていく。既に公開している2回の記事は下記だ。

建築系雑誌読み比べ!01:建築知識、Casa BRUTUS、日経アーキ─それぞれの社会性を投影
建築系雑誌読み比べ!02:新建築、GA、商店建築─「新作紹介」の葛藤

 今回の3冊をくくる共通テーマは「技術」。この3冊を読んで、「ああ、技術というのは宝の山だな」と改めて感じた。「a+u」は技術に特化した雑誌ではないが、この号はコンピュテーショナルデザインの特集で、ゴリゴリの技術情報だった。そして、これが今、最も旬なテーマであるように思えたので、今回はa+uからレビューを始める。

時期尚早を恐れず攻める「a+u」

 「a+u」(エー・アンド・ユーと読む)2020年4月号の特集は「コンピュテーショナル・デザインの展開」。今回、12冊を読んだなかで最も「期待を超えて面白かった」のがこの雑誌だ。

 正直、a+uは号によって、関心を持てないものとグッとはまるものの振れ幅が大きい。今回は後者、それも近年でも指折りの内容だった(私にとっては)。

(1)ほかの雑誌にない独自性

 a+uは基本、海外の建築情報を日英併記で載せている。しかも月刊。海外の建築家を1号で1組深掘りすることもあれば、今回のように共通テーマで輪切りにする特集もある。
 
 4月号の目次を見てみよう(一部割愛)。

イントロダクション:
生成的建築:批評的実践の習慣化(ジェニー・E・セイビン)
ザハ・ハディド・アーキテクツ
モルフェウス・ホテル・シティ・オブ・ドリームス、ワンサウザンド・ミュージアム
モーフォシス
コーロン・ワン・アンド・オンリー・タワー
ザ・リヴィング
エンボディド・コンピュテーション・ラボ、Hy-F
コンピュテーショナル・デザインおよび建設研究所(ICD)
BUGAファイバー・パヴィリオン2019、BUGAウッド・パヴィリオン2019、ICD/ITKEリサーチ・パヴィリオン2016~17
マルク・フォルネス/ザベリーメニー
ミニマ|マクシマ
ジェニー・セイビン・スタジオ
エイダ 
ネリ・オックスマン、メディエイティド・マター・グループ
シルク・パヴィリオン、アグアオハ
セイビン・デザイン・ラボ
ポリブリック・シリーズ

 特集の冒頭は、ザハ・ハディド・アーキテクツの設計で2018年にマカオに完成した「モルフェウス・ホテル・シティ・オブ・ドリームス」のリポートだ。ネットのような白い外骨格で覆われた超高層ビルは、どこかのメディアで目にした方が多いかもしれない。しかし、その設計過程~施工過程をこれほど詳しく解説したものは初めて読んだ。このプロジェクトだけで20ページを割いている。

(誌面スケッチ:宮沢洋、以下も同じ)

 ザハ事務所のもう1つのプロジェクトは、2020年竣工の最新作、マイアミの「ワンサウザンド・ミュージアム」。ミュージアムという名前だが、地上62階建てのペンシル型コンドミニアムだ。

 この2つのプロジェクトを中心に、亡きザハの後を仕切るパトリック・シューマッハー(ザハ・ハディド・アーキテクツ・パートナー)らが、同事務所の「パラメトリシズム」について語る。この手の話が好きな人はインタビューがツボなのだろうと思うが、そこまで詳しくない筆者は、もう少し物質的なところ、特に施工の方法(例えば仮設の足場の立て方)を詳細に検討していることに興味を引かれた。

 実は編集長時代にザハ事務所特集をやりたかったのだが、言葉や人繰りなどの問題からなかなかそれが実現できず(単発の取材記事は何度かやった)、この特集を見て悔しかった。さすがはa+u!

 この雑誌は新建築社がつくっているのだと思っていたのだが、表紙裏をよく見ると発行所はエー・アンド・ユーという別会社だった。ただ、スタッフリストを見ると、「発行者・編集長:吉田信之」とあり、吉田信之氏は新建築社の社長でもあるので、グループ会社なのだろう。この雑誌も前回取り上げた「GA Japan」と同様、広告がほとんどない。定価2852円・月刊で発行するのは本当に大変だろうなと頭が下がる。

(2)なるほど!と感心した伝え方

 今回の特集は技術寄りだが、それでも誌面はグラビアだ。美しい写真やCGがゆったりと並んでおり、テキストを読まずにパラパラ見るだけでも刺激になる。

 そして前回、「新建築」で指摘したように、この雑誌も各記事に見出しがない。だから、内容を理解しようと思ったらテキストを全部読まなければならない。「刺激」を超えて「実」を得ようという人は、楽はできない。

 特集で最もページを割いているのはザハ事務所のプロジェクトなので、表紙もザハのプロジェクトでいいように思うのだが、表紙に並ぶのは3つの謎のパーツ…。これは一体何?と思いながらページをめくっていくと、ようやく最後の事例としてこれが現れた。セイビン・デザイン・ラボ(米国)による「ポリブリック・シリーズ」というのがそれだ。

 しかし、この説明文が分かりにくい! 3度読み直したのだが、私の読解力では「3Dプリンターでつくるセラミックの進化形」とざっくりしたことしが皆さんにお伝えできない。この手の技術系記事にはやはり見出しを付けた方が…とは思う。

(3)編集部へのエール

 冒頭に「号によって関心を持てないものとグッとはまるものの振れ幅が大きい」と書きましたが、前者の場合は大抵、編集部の着眼が早すぎて、私が追いついていないだけです。責めているわけではありません。

 バックナンバーを振り返ると、「既に特集してる!」と驚くことがよくあります。RCR(スペインの建築ユニット)がプリツカー賞の授与式で来日したときも、a+uのバックナンバーでにわか勉強しました。これからも、早すぎを恐れずに攻めてください!

■「a+u」(Architecture and Urbanism)2020年4月号
発行:エー・アンド・ユー、発行者・編集長:吉田信之、月刊、定価2852円(税込み)、年間購読(12冊):3万4224円

https://shinkenchiku.online/product-cat/architecture-and-urbanism/

これぞ編集メソッド、「建築技術」

(1)ほかの雑誌にない独自性

 「建築技術」は日経アーキテクチュア在籍時代、技術系の記事を担当すると、過去にそれに似たタイプの特集がないか、バックナンバーを調べるのが常となっていた。技術情報の実務性の高さでは圧倒的なメディアだ。そして1冊1935円と、情報密度の割に安い。

 これまであまり考えたことがなかったが、これほど専門性の高いメディアをだれがいつ立ち上げたのだろう。創刊は1950年(昭和25年)。そんなに古いのか! WEBサイトにこんな説明が載っていた。

 「『月刊建築技術』は、旧建設省(現国土交通省)建築研究所内(現独立行政法人建築研究所)において、建築研究所内建築技術研究会編集のもとに戦後、わが国の建築技術に関する最初の専門誌として第1号が1950(昭和25)年に創刊されました。1960年に有限会社建築技術を設立し、「月刊建築技術」第111号(1960年10月号)から建設省建築研究所編集から建設省建築研究所監修となりました。1980年に株式会社建築技術に改組し、今日に至っております」

 そうか、もともと建設省建築研究所がつくっていたのか。だからこんなに、地に足のついた特集を続けられるのか…。

 こんなことも書いてあった。

 「『月刊建築技術』は創刊の辞で『技術者が育て 技術者を養う 建築技術』を標榜し、実践的科学技術の紹介こそ『月刊建築技術』の使命として、爾来、現業技術者ならびに研究者が常に自分の知識や技術的体験を練磨し向上してゆく情報を提供し続けております」

 読んだことのない人は、すごく古くさい、お役所的雑誌に思えるかもしれない。だが、同誌が取り上げるテーマは、常に建築技術分野の最先端だ。「建築技術者の関心の最先端」と言った方がいいかもしれない。毎号の特集テーマには、編集者としていつも「そうかそこか!」と感心する。

 2020年4月号の特集は「複合建築物における構造設計のポイント」だ。そうか、「複合建築物」と来たか。

 WEBサイトにはこう書かれている。「オフィス+劇場+商業施設や商業施設+マンションといった複合施設の構造設計を解説する。現在の複合施設は多様なバリエーションがあり、構造の解き方もさまざまである。多くの事例を紹介し、複合施設の構造設計をする際の勘所を解説する」──。確かに、ホールのような大空間は、近年では単独でつくられるよりも、他用途と複合のケースの方が多い気がする。構造にしても音響にしても、単体ホールとは異なる配慮が必要だ。

 レビューの候補雑誌を大人買いした4月7日時点では4月号が最新号だったが、4月17日に5月号が発売されている。特集は「設備設計と協働でJUMPする建築設計」。こちらも今っぽいテーマだ。

(2)なるほど!と感心した伝え方

 この雑誌は先ほどの「a+u」とは反対に、見出しが具体的で読みやすい。

 4月号の複合建築物特集の見出しを並べてみると、
Ⅰ.複合建築物における構造設計の概要
Ⅱ.複合建築物を設計する際のポイント

複合建築物における建築計画のポイント│複合建築物における音・振動防止計画のポイント│複合建築物における構造計画のポイント
Ⅲ.柱割(スパン)が異なる場合の注意点
斜め柱で柱割(スパン)を切替える場合の注意点│トラス構造で柱割(スパン)を切替える場合の注意点│中間層免震の構造計画│異なる構造特性をもつ架構を一体とした際の解析手法と評価│
Ⅳ.混合構造となる場合の注意点
混合構造の特徴と接合部のディテール│混合構造の地震力評価│座屈拘束ブレースを用いる場合の注意点│木造を組み合わせた場合の設計手法と接合方法
Ⅴ.階高や接地圧が異なる場合の注意点
用途で階高が異なる場合の構造計画の配慮│建物の接地圧が異なる場合の注意点
Ⅵ.複合建築物の音・振動対策
複合建築物における遮音計画のポイントと事例│建築・土木が融合した複合建築物の振動対策│ホテル・集合住宅とオフィス・商業施設が複合される場合の振動対策│フロア免震の有効性
Ⅶ.複合建築物を施工する際の注意点
オフィス・商業+集合住宅・ホテルが複合される場合│オフィス+商業+劇場が複合される場合

 よく企画段階でこれだけ現実的なテーマを並べられるものだ。これまで知らなかったのだが、この雑誌の特集には毎号1人、監修者が付いているようだ。今回の特集の監修者は朝川剛・東京電気大学未来科学部建築学科准教授だ。

 監修者がいるからと言って、編集者が監修者に丸投げしているわけではない。あくまで推測だが、最初から丸投げしたら、こんな見出しにはならない。この雑誌は見出しが具体的なので、内容がかなり専門的でもそれなりに分かる。分かった気になるというべきか。

 それと、誌面はほぼモノクロだが、図がシンプルで分かりやすく、モノクロでもポイントが伝わる。これは正統的な編集メソッドが機能している証拠だ。

3)編集部へのエール

 いつも参考にさせてもらっています。雑誌の性格からしてかなり先まで特集は決まっているのかもしれませんが、できるだけ早く「ウイルス対策」の特集が読みたいです。

■「建築技術」2020年4月号
発行:建築技術、編集長:高木秀之、月刊、定価1935円(税込み)、年間購読(12冊):2万3220円

http://www.k-gijutsu.co.jp/

麻薬的魅力の「ディテール」

(1)ほかの雑誌にない独自性

 この雑誌は、タイトル自体が独自性を示している。あるいは建築分野の特異性というべきか。「ディテール」というテーマで雑誌が成立してしまう。こんなことが他の分野であるのだろうか。

 ディテールは日本語に訳せば「細部」だが、雑誌の内容としては「細部への工夫やこだわり」を集めたものと言ってよいだろう。「料理雑誌」だったら「隠し味」専門誌? 医療雑誌だったら「問診ノウハウ」専門誌? いずれもちょっと違う気がする。他分野の人には建築における「ディテールの意味」がなかなか説明しづらい。

 私はもともと文系出身なので、最初はディテールの意味がさっぱり分からなかった(宮沢のプロフィルはこちらのページ参照)。だが、3年くらいたって建築が面白くなり始めると、ディテールの面白さも徐々に分かるようになってきた。これまでに「ディテール集」的な書籍を何冊もつくってきたので、今はディテール大好き人間の1人である。

 だから、ディテールというテーマに「面白さが分かるとのめり込んでしまう」麻薬性があることも理解できる。同じ彰国社発行の「建築文化」(往時は月刊)が休刊になったのに、こちらのディテールが季刊とはいえ残っているのはディテールの麻薬性ゆえなのではないか。

 最新号(2020年春季号)の特集は「階段で決まる建築のリアリティ」。ディテールの中でも特に麻薬性の高い「階段」がお題。これは売れるだろうなあ。

(2)なるほど!と感心した伝え方

 この雑誌も正統的な編集メソッドが機能している。すごさの1つ目は、「特色2色」ページの巧みさ。

 コピー機でも分かると思うが、印刷のコストはモノクロ→2色→4色(C、M、Y、K)の順で高くなる。2色はたいてい黒(K)とシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)のいずれか1色で印刷する。しかし、この2色が「特色」の組み合わせでもさほど印刷費は変わらない。

 今号の階段特集を見ると、前半の解説記事部分は「濃紺とオレンジ」の2色でつくられており、4色印刷をしのぐ明るい誌面に仕上がっている。特集以外でも、目次ページは黒+銀の2色印刷の差し込みページ(1枚だけ違う紙を挟み入れたページ)だ。

 すごさの2つ目は、「折(おり)」のコントロール。雑誌は大きな紙を折りたたんで裁断するので、原則、最小で8ページ分がまとめて印刷される。これを折と呼ぶ。さらに、この大きな紙を表(A面)・裏(B面)別々に印刷するので、雑誌にしたときには2ページ見開きごとにA面・B面が繰り返す。

 ディテール誌を見てみよう。頭からページをめくっていくと、カラーページ、特色ページは8の倍数内で完結している。これは特色を使うからには当然のことであるが、驚くのは(おそらく同業者のみが気付くのは)、カラーページの見開きの次が必ずモノクロ見開きになっていること。これは先ほど説明したA面をカラーで、B面をモノクロで印刷したからだ。

 そして巻末には、紙自体を色付きに変えた折もある。変化をつけてチープに見せないコストダウンの工夫が素晴らし過ぎる!

(3)編集部へのエール

 編集者として、「こんな玄人好みの台割(書物のページ割り設計図)がつくりたい!」と憧れています。そう思いつつも、いつも無駄に4色を使う本になってしまいますが…。

 内容について欲を言えば、「3Dプリンターとディテール」とか「AIとディテール」とか、その手のデジタル系特集も読んでみたいです。安全・安心がディテールの前提なので難しいとは思いますが、別冊としてでもご検討いただければ。

「ディテール」No224 2020年春季号
発行:彰国社、編集長:山根一彦、季刊、定価2143円(税込み)、年間購読(4冊):9428円(税込み)

https://www.shokokusha.co.jp/?md=d

 第1回、第2回、第4回はこちらへ。

建築系雑誌読み比べ!01:建築知識、Casa BRUTUS、日経アーキ─それぞれの社会性を投影
建築系雑誌読み比べ!02:新建築、GA、商店建築─「新作紹介」の葛藤
建築系雑誌読み比べ!04:住宅特集、住宅建築、建築知識ビルダーズ─「建築の日本」を醸成