【大手メディアの方へ】羽島市が坂倉準三による旧市庁舎の民活提案を募集中、「20年以上の活用」と「耐震補強」が条件

 どうでもいい記事もたくさん書いているサイトなので、どうでもよくない記事が見逃されてしまうのかもしれない。世の中の話題になかなかならなくて歯がゆいので、改めて書くことにした。解体が議論されている坂倉準三設計の旧羽島市庁舎(1959年竣工)が、利活用の提案を民間事業者から募集している。募集が公表されたのは、7月7日で、提案書の受付期間は8月22日~9月30日。提案の締め切りまではあと2カ月あるが、質問の受付は8月12日(金)までなので、本気で出す人は急いで実施要領を読んだ方がいい。詳細は羽島市のサイトを。

(写真:宮沢洋、2022年6月撮影)
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新潟県三条市に隈建築が相次ぎオープン、ふんわり系図書館「まちやま」と、びっくり系仕上げの「スノーピーク スパ」

 私ほど国内各地を巡っている人間も珍しいのではないかと思うのだが、新潟県三条市を訪れたのは今回が初めてだ。『隈研吾建築図鑑』(2021年5月発刊)を書いた者として、隈研吾氏の新作が2つ、立て続けにオープンしたと聞いては、行かないわけにいかない。1つは7月24日に開館したばかりの三条市図書館等複合施設「まちやま」、もう1つは今春オープンした「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」だ。

左が三条市図書館等複合施設「まちやま」、右が「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」 (写真:宮沢洋)

 メディアも隈氏の新作を追いきれないのだろう。どちらもまだあまり目にしない。しかし、目にしないからつまらないわけではない。経験上、隈氏の建築は、あまり話題になっていないものの方が意外に面白い。

 『隈研吾建築図鑑』では、隈氏の建築50件を「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4つに分類して、その進化をたどった。中でも「ふんわり系」が隈氏の地方都市での人気を支えている、というのが私の分析だ。 

木の板の“密度の低さ”がすごい!

 まずは、7月24日に開館した三条市図書館等複合施設「まちやま」(新潟県三条市元町11番6号)。これは、典型的な「ふんわり系」だ。「典型的」ではあるが、手法は徐々に進化している。

 外観はこんな感じ。木の板をすかして立体化するのは隈氏の十八番。これはさほど珍しくはない。

 驚いたのは、施設の核となる図書館の天井。木の板の“密度の低さ”がすごい! 裏側が丸見えだ。

 皮肉で言っているわけではない。普通の建築家なら、板と隙間を等間隔にするか、隙間をできるだけ小さくしようとする。隈氏であっても、これまでは板1:隙間2くらいだった。ところがここは、板1:隙間3~5くらいだ。それが、空間の「ふわっ」とした感じに大きく寄与している。これが1:1だったら、この緩い空気感は生まれないし、もし板がなかったら単なる素っ気ない空間だ。

 外観の木の使い方について「さほど珍しくない」と書いたが、全体の立面に占める割合の低さは、さすが隈氏だ。平面がL字に折れてトンネルになっている部分に板を集中させ、最大の効果を得る。『隈研吾建築図鑑』の中で私は何度も「隈氏のデザインはコスパが高い」と書いたが、ここは真骨頂と言えそうだ。

 開館から7日目の土曜日に行ったので、館内は大にぎわいだった。サインが相変わらずいい。

 敷地の一角に、平屋の木造建築がある。カフェなどが入る「まちなか交流広場 ステージえんがわ」だ。

 「ふんわりの一方で、こんなに本格的な現代木造を設計できるのか、さすが隈さん」と思ったのだが、スタッフに聞くと、こちらは2016年完成で、隈氏ではないとのこと。後で調べたら、手塚建築研究所の設計だった(構造設計はオーノJAPAN)。なるほど。

藤森的な薪仕上げを現代的に見せる

 もう1つは「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」(新潟県三条市中野原456-1)だ。

 以下、開業時のお知らせから引用(太字部)。

 2022年4月15日(金)にSnow Peakとして初となる温浴施設を中心とした自然を感じる複合型リゾート「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」がグランドオープンいたします。「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」は世界的な建築家の隈研吾氏の設計によるもので、館内に使われる土壁や木材は、すべて地元新潟のものを使用。粟ヶ岳を望むロケーションから生まれた、野性味のある山波のような外観は、焚火に不可欠な薪をイメージしており、自然との圧倒的な一体感を生み出す、屋内と屋外の隔たりを感じさせないデザインとなっております。

 日本三百名山の一つである粟ヶ岳を眺望できる開放的な露天風呂や、焚火を囲むような感覚で楽しめるサウナ。レストランでは生産者の方々と深くつながることが出来る、地元の食材を生かしたメニューをご用意しております。

 人気のアウトドアブランド「スノーピーク」の本拠地なので、こちらはお金がかなりかかっていそう。外観は「びっくり系」だ。

 なんだ、この庇、どうなっているんだ? 薪が浮いてる? 

 こうなっている。

 かつて藤森照信氏が「ニラハウス」(1997年)の茶室で、輪切りにした薪に針金を通して、天井にびっしり吊っているのを見たことがある。それは、「いかにも手作業な感じ」=「野蛮ギャルド」が面白かったのだが、隈氏を薪を工学的な方法できちんと並べてみせる。これぞ現代建築といわんばかりに。この仕上げを見て、隈氏と藤森氏の違いについて、正面から考えたくなった。いつかどこかで書いてみたい。

薪仕上げは1階の室内にも連続する

 施設としては、浴室が素晴らしい。三条市に行ったら、日帰り入浴するべき。隈氏は、トリッキーな手法ばかりが注目されるが、実は「景色のいいところを切り取って見せる」という建築の基本を外さない人である。今回はアポなしで行ったので、浴室の写真が撮れず、申し訳ない。ビジュアルを見たい人はこちらを。

 最後に少し宣伝を。『隈研吾建築図鑑』がこのほど5刷りを迎えた。

 私にとって初の単著なので、じわじわと売れ続けているのは本当にうれしい。でも、いつか「増補改訂版を」と言われたら、新作の数が多くて大変だ。こまめに見ておかないと。(宮沢洋)

22年度の「日本建築大賞」が募集開始、昨年に続きメディア枠で宮沢が審査会に参加

 2022年度の「JIA日本建築大賞」などを決める「日本建築家協会優秀建築選2022」の作品募集が始まった。応募締切は9月2日(金)だ。昨年に続き筆者(宮沢)が審査委員の1人を務める。審査会のメンバーは下記の5人だ。

・田原幸夫氏(建築家)
・松岡拓公雄氏(建築家)
・手塚貴晴氏(建築家)
・永山祐子氏(建築家)
・宮沢洋氏(編集者)

応募要項より。赤線は私が引いたもの

 今年、応募要項を改めて読んで気づいたのだが、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ5人の審査委員から成ります」って、「(宮沢洋氏を除く)」というカッコ書きが必要なのではないか…。もしくは、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ4人と、文系出身の建築好き1人の審査委員から成ります」が正確なのでは…。

 なぜこういうことが起こっているかというと、歴代の審査委員の中で文系出身なのが私だけと思われるからだ。これまでもメディア畑の人は含まれていたが、みんな建築学科出身だった※。だから、「建築に関して高度な見識を持つ」という文面に違和感がなかった。

※注:この記事を読まれた方から指摘があり、同賞の第1回(2005年度)審査員の1人が植田実氏で、植田氏は早稲田大学文学部卒でした。お詫びして訂正します。ただ、植田実氏は兄の植田一豊氏が建築家(RIAの創設メンバーの1人)なので、私の素養とは比べるべくもなく、下記の文章はそのままにします。

 そのことを意識したうえで選ばれたのかは分からないが、この錚々たる面々の中で私に求められているのは、「建築に関する高度な見識」とは違うところなのだろう。昨年の審査と同様、従来の「建築作品」の価値観にとらわれない率直な感想を述べていきたいと思っている。ちなみに、大賞の最終審査は公開審査だ。

 今年の応募要項はこちら

 過去10年の大賞受賞作をご参考まで。

■2012年度(審査委員:斎藤公男・三宅理一・大森晃彦)
<日本建築大賞>
竹の会所
設計者:陶器 浩一(滋賀県立大学)
建築主:滋賀県立大学陶器浩一研究室
施工者:滋賀県立大学陶器浩一研究室+たけとも+髙橋工業

■2013年度(審査委員:三宅理一・大森 晃彦・長谷川 逸子)
<日本建築大賞>
実践学園中学・高等学校 自由学習館
設計者:古谷 誠章(早稲田大学)、八木 佐千子(有限会社ナスカ)
建築主:学校法人実践学園
施工者:大成建設株式会社

■2014年度(審査委員:大森 晃彦・深尾 精一・槇 文彦・長谷川 逸子・西沢 立衛)
<JIA日本建築大賞>
山鹿市立山鹿小学校
設計者:工藤 和美、堀場 弘(いずれもシーラカンスK&H株式会社)
建築主:山鹿市
施工者:光進・相互建設工事共同企業体

■2015年度(審査委員:長谷川逸子(審査委員長)・深尾精一・磯達雄・西沢立衛・富永譲)
<JIA日本建築大賞>
大分県立美術館
設計者:坂 茂、平賀 信孝、菅井 啓太(いずれも株式会社坂茂建築設計)
建築主:大分県知事 広瀬勝貞
施工者:鹿島建設・梅林建設建設共同企業体

■2016年度(審査委員:深尾精一(審査委員長)・磯達雄・西沢立衛・富永譲・相田武文)
<JIA日本建築大賞>
ROKI Global Innovation Center -ROGIC –
設計者:小堀 哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:株式会社ROKI 代表取締役社長 島田 貴也
施工者:大成建設株式会社

■2017年度(審査委員:富永譲(審査委員長)、磯達雄、後藤治、相田武文、淺石優)
<JIA日本建築大賞>
道の駅ましこ
設計者:原田 麻魚、原田 真宏(いずれもMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
建築主:益子町長 大塚朋之
施工者:株式会社 熊谷組首都圏支店

■2018年度(審査委員:相田武文(審査委員長)、淺石優、木下庸子、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
NICCA INNOVATION CENTER
設計者:小堀哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:日華化学株式会社 代表取締役社長 江守康昌
施工者:清水建設株式会社 北陸支店

■2019年度(審査委員:淺石優(審査委員長)、木下庸子、ヨコミゾマコト、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
古澤邸
設計者:古澤 大輔(リライトD/日本大学理工学部建築学科)
建築主:古澤 大輔
施工者:株式会社TH-1

■2020年度(審査委員:木下庸子、佐藤尚巳、手塚貴晴、田原幸夫、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)
設計者:青木 淳(AS)、西澤 徹夫(株式会社西澤徹夫建築事務所)、森本 貞一(株式会社松村組大阪本店)、久保 岳(株式会社昭和設計)
建築主:京都市
施工者:株式会社松村組大阪本店

■2021年度(審査委員:佐藤 尚巳(委員長)、松岡 拓公雄、原田 真宏、田原 幸夫、宮沢 洋)
<JIA日本建築大賞>
長野県立美術館
設計者:宮崎 浩(株式会社プランツアソシエイツ)
建築主:長野県
施工者:建築:清水・新津建設共同企業体
電力設備:協栄電気興業株式会社
弱電設備:株式会社TOSYS
空調設備:金沢工業株式会社
衛生設備:浅間設備株式会社
外構ほか:株式会社守谷商会

 毎年、「大賞」以外に「優秀建築賞」数点と「優秀建築選100作品」が選ばれている。2021年度の優秀建築賞は以下の2点だった。

<2021年度JIA優秀建築賞>
熊本城特別見学通路
設計者:塚川譲(株式会社日本設計)
堀駿(株式会社日本設計)
建築主 熊本市
施工者:安藤・間・武末・勝本建設工事共同企業体

新富士のホスピス
設計者:山﨑健太郎(山﨑健太郎デザインワークショップ)
建築主:医療法人社団秀峰会 川村病院
施工者:株式会社佐藤建設

 繰り返しになるが、募集中の2022年の応募要項はこちら

越境連載「建築シネドラ探訪」24:「カメラを止めるな」のロケ地愛はアカデミー監督超え!ロケの主役は水戸市公認廃墟「旧芦山浄水場」

 アカデミー賞監督であるフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督が日本の『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)をリメイクした『キャメラを止めるな!』が、2022年7月15日から公開中だ。アザナヴィシウス監督、この映画に目をつけるとはなかなかいいセンスをしている。今回は、海外リメイクによって再び話題になっている本家『カメラを止めるな!』(以下、カメ止め)を取り上げる。

(イラスト:宮沢洋)

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立山アルペン建築(後編):村田政真の「ホテル立山・室堂ターミナル」を見た! 木製扉は単なる雨戸にあらず

 「うらやましい!」は、建築好きにとって最高の褒め言葉である。行ったことのある人が少ないであろう「立山黒部アルペンルート」の建築ルポ後編は、村田政真(1906~1987年)が設計した「ホテル立山・室堂(むろどう)ターミナル」だ。

標高2450mの室堂は、7月下旬でも雪が残っている.。前編で取り上げた弥陀ヶ原の「県立立山荘」とは標高差にして500mほどの違いだが、気候が全然違う。寒い! 長袖を着て来るべきだった(写真:宮沢洋)
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立山アルペン建築(前編):吉阪隆正の「立山荘」を見た!山に架かる“二重の虹”はなんと増築

 建築好きの間で「話したくなる建築」の最上位は、「実物を見た人が少ない建築」だ。「うらやましい!」は最高の褒め言葉である。筆者(宮沢)が脱サラした直後にブラジルに行ったのはそういう理由からだったが(こちらの記事など)、国内にも行きにくい建築はたくさんある。今回、富山出張にからめて、初めて「立山黒部アルペンルート」を上ってきた。まずは、吉阪隆正(1917~1980年)の設計で1964年に完成した「県立立山荘(現・国民宿舎 展望立山荘)をリポートする。

(写真:宮沢洋)
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『日本の水族館 五十三次』いよいよ発売、目指したのは“子どもも大人(プロ)も楽しめる建築書”

 Office Bunga総動員で制作した『イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次』が青幻舎から発刊となる。

編著:宮沢洋+Office Bunga、A5判、オールカラー、208ページ、2300円+税、青幻舎

 奥付上の発行日は2022年7月28日だが、アマゾンではすでに7月24日から発送が始まっている。本の雰囲気については、「JBpress」と「LIFULL HOME’S PRESS」に紹介文を書いたので、そちらをご覧いただきたい。それぞれ違う内容を書いており、両方読めばかなりバカンス気分に浸れると思う。

JBpress(2022年7月24日公開)
「こんな見せ方が!」見事な展示アイデアの水族館ベスト3

LIFULL HOME’S PRESS(2022年7月25日公開)
建築を知ると2倍楽しい水族館、最新施設だけでなく「老舗」も面白い

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中銀カプセルタワーより早かった丹下流メタボリズム、「静岡新聞・静岡放送東京支社」が見えない耐震補強で再生

 「東京・新橋」「メタボリズム」といったら、多くの人が思い浮かべるのは、黒川紀章氏が設計した「中銀カプセルタワービル」(1972年竣工)だろう。今年4月から解体が始まり、建築好きは悲しみに暮れているに違いない。しかし、その一方で、新橋のもう1つのメタボリズム建築が再生されたのをご存じだろうか。設計は黒川氏の師である丹下健三氏。竣工は1967年。黒川氏も大きな影響を受けたことは間違いないこの建築だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)
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越境連載「建築シネドラ探訪」23:話題のネット配信ドラマ「ラグジュアリー・シドニー」は、日本の「家売るオンナ」と対極の住まい観

 この連載では初めての「ネット配信限定」コンテンツである。素人の日常を追いかけるリアリティ・ショーと呼ばれるものだ。“素人”といっても、「芸能人ではない」という意味であって、主役の3人はいずれも“不動産のプロ”。それも、オーストラリアでトップクラスの住宅売買実績を誇るプロ中のプロたちだ。

(イラスト:宮沢洋)

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電車から見る建築① 山手線:品川-渋谷 合理性と非合理性が織り成すカオスを味わう

 東京大学生産技術研究所の大学院生、大塚光太郎君の持ち込み企画である。企画書を見て、即連載決定。苦しい角度から撮った建築写真の刹那性に萌える!(ここまで宮沢洋)

(写真:大塚光太郎、以下も)

 人間と同じで、建築も会うたびにその表情を変える。東京タワーが好きな筆者は歩いている時や、運転中、電車に乗りながらなど様々なシーンでその姿を眺めてきたが、やはりそのどれも見せる表情は違う。歩きながら見上げると、そそり立つ人工建造物としての存在を強く感じるし、首都高速からは、ビルの間をかき分けた先に現れる演出のおかげで一層格好良く見える。

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