大改修後の「津山文化センター」を見学、“日本的RC四天王”が導いたサプライズ

 自分は割と約束を守る方の人間だと思う。約束を守るとこんないいことがある。

(写真:宮沢洋)

 背景の建物は、岡山県津山市の「津山文化センター」。中央の俳優のような男性は、文筆家で写真家で建築家でもある稲葉なおと氏だ。この写真がどうやって撮られたかについてはおいおい説明したい。

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加速するミュージアム・ダイバーシティを十和田市現代美術館&八戸市美術館で体感──「青森5館」全制覇・後編

 「青森5館(AOMORI GOKAN)」巡りの後編である。前回は5館のうち、
・弘前れんが倉庫美術館
・青森県立美術館
・青森公立大学 国際芸術センター青森

を巡った。今回(青森3日目)は残り2館を巡る。
・十和田市現代美術館
・八戸市美術館

 まずは、十和田市の「十和田市現代美術館」へ。これは有名過ぎて今さら恥ずかしいのだが、実物を見たのは初めてだ。

屋外彫刻はチェ・ジョンファの「フラワー・ホース」(写真:宮沢洋、以下も)
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「青森5館」全制覇! まずは田根剛/弘前れんが倉庫、青木淳/青森県美、安藤忠雄/国際芸術センターへ

 「青森5館(AOMORI GOKAN)」を全部言えるだろうか。私が勝手につくった造語ではない。2020年7月に設立された「青森アートミュージアム5館連携協議会」の取り組みだ。コロナ禍がずっと続いていて、まだ大きな連携イベントは行われていないようだが、5館の企画展の内容などが一度に見られるサイト(こちら)があって、これは便利だ。

 で、5館とは何を指すのか。建築好きならばスラスラ答えてほしい。公式サイトの並び順にいうと、こうなる。

・弘前れんが倉庫美術館
・青森公立大学 国際芸術センター青森
・青森県立美術館
・十和田市現代美術館
・八戸市美術館

 ゴールデンウイーク中に青森で仕事があったので、レンタカーを借りて5館を全部回ってみた。2泊3日のアート漬け&建築漬けの旅。その雰囲気を写真で紹介する(それぞれを詳しく論ずると大変なレポートになってしまうので、あくまで雰囲気レベルでご容赦を)。

5館巡りの1つめはここ(写真:宮沢洋、以下も)
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フジモリ先生との共著『モダニズム建築とは何か』、自信を持ってお薦めする理由は「疾走感」と「強い軸」

 藤森照信先生と私(宮沢洋)の共著『画文でわかる モダニズム建築とは何か』が彰国社から発刊される。大手書店には今週末あたりから並びはじめ、アマゾンではGW終盤から発送が始まるという。

アマゾンはこちら

『画文でわかる モダニズム建築とは何か』
文:藤森照信・画:宮沢洋。彰国社、2022年5月10日、A5判、128ページ、特色2色刷、1900円+税
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たぶん日本初! 約2時間のFM特番で「建築」を熱く語る、玄理×川原秀仁YPMC会長×西沢立衛、4月29日18:00~@J-WAVE

 「続編を楽しみにしています!」と本人には言っていたのだが、すごい形での続編となった。4月29日(祝)18:00~19:55放送のJ-WAVE(81.3FM)特別プログラムで、あの人が再び登場する。

右は女優で番組ナビゲーターの玄理(ヒョンリ)さん。左の人、誰だか分かりますか?

 以下、公式サイトの告知より。

J-WAVE SPECIAL
LANDSCAPE WONDER~ARCHITECT JOURNEY~
2022年4月29日(祝)18:00~19:55

 世界の建築にフォーカスするスペシャル・プログラム「LANDSCAPE WONDER」。今回は“ARCHITECT JOURNEY”と題し、旅をしてまでも見たい日本にある有名建築家の建築物について特集します。中でもル・コルビジェと彼が基本設計を手掛けた国立西洋美術館について注目。コメンテーターには“施設参謀“川原秀仁さんが登場。 

 宣伝臭くなるからか社名は書いていないが、「“施設参謀”川原秀仁さん」は、山下PMCの川原秀仁会長だ。

 昨年、半年間にわたり「LANDSCAPE WONDER」(本来は日曜午前の番組)にレギュラー出演した川原会長(当時は社長)のトークがうますぎる、と当サイトの「建築の愛し方」で独占インタビューした。かつてDJをやっていた過去などはそちらをご覧いただきたい。

建築の愛し方10:「J-WAVE」の建築面白解説者は“元DJ”の山下PMC社長、放送は残る2回!──川原秀仁氏

 そして、今回の特番の内容も面白そう。以下は、山下PMCのサイトより。

 さらに、プリツカー賞も受賞した建築家・西沢立衛氏をゲストで登場。「旅をしてまでも見てみたい建築」をテーマに語り合います。音楽通である川原が、番組のテーマに沿い、ゴールデンウィークのはじめにふさわしい選曲をいたしますので、あわせてお楽しみください。

 おお、世界の西沢氏も参戦……。何の話するんだろう。オスカー・ニーマイヤーの話をしてほしいな。

 川原会長は、トークよりもむしろ、2時間の選曲を自分でできるのがうれしくて仕方がないらしい。マニアックな曲、かけるんだろうな。選曲のうんちくも聞きどころ。

 私はFMラジオ好きで、ほとんど1日中FMを聞いているが、過去に「2時間建築の話だけをする」といった企画を知らない。おそらく日本で初めてなのではないか。FMを聞きなれない人も、話の種にこれは聞かねば。 J-WAVEの周波数は「81.3」です! (宮沢洋)

■番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:J-WAVE SPECIAL LANDSCAPE WONDER ~ARCHITECT JOURNEY~
放送日時:2022年4月29日(金・祝)18:00~19:55
ナビゲーター:玄理
コメンテーター:川原秀仁(施設参謀)
ゲスト:西沢立衛(建築家)
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/holiday/20220429_sp/

※radikoなら1都6県、radikoプレミアム(有料)なら日本全国どこでも視聴可能。https://www.j-wave.co.jp/radiobar/

「東京海上ビル」見学会で知った“王冠”の意味、「勝手にリノベ対決」はNOIZ案に軍配

 4月24日、「東京海上ビルディングを愛し、その存続を願う会」が主催する講演会と見学会が開催された。ここでいう東京海上ビルディングは、前川國男の設計で1974年に完成した現・東京海上日動ビル本館のことだ。同社はレンゾ・ピアノ氏らの設計で、ビルを建て替えることを発表している。

エントランスホールの柱をめでる前川建築設計事務所の橋本功所長。柱のはつり仕上げは、彫刻家の流政之が指示したものという(写真:宮沢洋、以下も)
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予想通り「長野県立美術館」が学会賞・建築大賞をW受賞、そのすごさは周辺の劇的変化

 やはり、の結果だった。日本建築学会は4月19日、2022年の日本建築学会賞の各賞を発表した。「作品」部門の受賞は以下の3件(以下 敬称略、学会発表順)だった。

「旧富岡製糸場西置繭所」
齋賀英二郎(公益財団法人文化財建造物保存技術協会事業部保存管理計画担当技術主任)
斎藤英俊(京都女子大学名誉教授)
木村勉(長岡造形大学名誉教授)

「太田市美術館・図書館」
平田晃久(京都大学教授/平田晃久建築設計事務所)

「長野県立美術館」
宮崎浩(プランツアソシエイツ代表)

 何が「やはり」かというと、「長野県立美術館」が作品賞に選ばれたことだ。

(写真:宮沢洋、以下も)
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越境連載「イラスト名建築ぶらり旅」07:2度の大胆再生で気分はハリー・ポッター──茨城県立図書館

 入り口を入ると、まるでホグワーツ魔法魔術学校(ハリー・ポッターが通う学校)のような中世ヨーロッパ風の空間が出迎える。いきなりですが問題。この「茨城県立図書館」は、「図書館」になる前、何の建物だったでしょう? チッチッチッチッ……。

(イラスト:宮沢洋)

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越境連載@東芝エレベータ02:「チャーリーとチョコレート工場」─名作映画・ドラマの隠れた「主役たち」

 ウィリー・ウォンカがつくるチョコレートは世界中の子供たちに大人気だ。しかし、その工場に入った者は誰もおらず、製造法は秘密のベールに包まれていた。ところが、商品に同封された黄金のチケットを引き当てた5人に、工場見学が許される。ウォンカが案内するチョコレート工場の内部とは、果たしてどんなところだったのか、というストーリー。天才で変人の工場長ウォンカをジョニー・デップが演じている。(文:磯達雄)

(イラスト:宮沢洋)

 続きはこちら。(東芝エレベータのサイト「よくわかるエレベーターと建物のこと」に飛びます)

大阪の新生・藤田美術館が開館、隣接する公園との見事な一体感は今後のヒント

 2017年から大規模な改修工事を実施していた藤田美術館(大阪市都島区網島町)が、4月1日にリニューアルオープンした。

(写真:宮沢洋)

 同館は、実業家の藤田傳三郎(1841~1912年)とその息子たち(平太郎、徳次郎)によって築かれたコレクションを中心として、1954年に開館した。国宝9件、重要文化財53件を含む約2000件のコレクションを所蔵しており、特に、瑠璃色に輝く「曜変天目(ようへんてんもく)茶碗」は、国宝指定された3碗の1つとして知られる。

国宝「曜変天目茶碗」は一番奥の部屋で見られる。さほど焼き物に詳しくない私(宮沢)でも、これはとんでもない茶碗だと分かる


 リニューアル前は「蔵の美術館」として知られていた。明治~大正期に建てられた藤田家の邸宅の蔵を改装し、展示室として再利用してきた。藤田家の邸宅は1945年の大阪大空襲で焼失したが、蔵と中の美術品は延焼を免れた。そんな逸話が残る蔵だった。(かつての蔵の展示室を見たい人は、他紙ですがこちらを)

 しかし、老朽化が激しく、大掛かりな耐震改修なども検討されたものの、今後を見据えて全面的に建て替えた。設計・施工は大成建設が担当した。設計の中心になったのは、大成建設関西支店の平井浩之設計部長だが、設計過程では館長の藤田清氏が、“統括建築家”と言ってもいいほどに、さまざまなアイデアを出した。もちろん、全部その通りになった訳ではなく、それに対する大成側の提案もあって、例えば建物の外観は当初提案とは全く異なる白い大庇とガラス開口の箱になった。古い蔵の記憶を引き継ぐため、象徴的な部材を残して随所に使っているが、単に古いものを踏襲するという守りの建築ではない。

 …と、なぜプロセスをそんなに詳しく私が知っているかというと、1年ほど前に、縁あって藤田館長と対談させてもらったからだ。(そのときの記事は、館のサイトのこちら

 ちょうど開館日の4月1日に大阪で仕事があったので、初日に行ってみた。展示物が置かれてから館内を見るのは私も初めて。エントランスホールの大らかさや、展示室内の「異物の少なさ」など、藤田館長のこだわりが改めて伝わってきた。

 展示は常に3テーマで構成。1カ月ごとに1テーマずつを変更し、3カ月後に訪れれば常に全てが新しい展示になるようにするという。開館記念の4月は、国宝「曜変天目茶碗」と、同館が12巻全てを所有する国宝「玄奘三蔵絵」第1巻(鎌倉時代)が展示されている。

清々しい「イグジットホール」?

 そして、これは藤田館長には言いづらいことなのだが、実際に開館した美術館を見て最も心を動かされたのは、“展示を見終わった後”の動線だった。

 展示室を出ると、エントランスとは逆側(北側)のホワイエのような空間に出る。展示室を見た後に、こういうふわっとした空間があるのは珍しい。「エントランスホール」という言葉と対比するならば「イグジットホール」か。展示室内が暗いので、明るい光に包まれたこの空間に出ると、深呼吸したくなる清々しさ。西側のガラス開口からは多宝塔(高野山から移築したもの)が見えて、庭に吸い込まれるよう。今回、実際の展示を見て、この空間の価値がわかった。

 帰路に着くには、そこから半屋外の縁側のような空間を南に戻る。そこから見える庭があまりに気持ちよくて、庭も歩いてみたいなと思っていたら、その考えを察するように庭の方に向かう小道が分かれていた。そちらに歩くと、館の出口を出ることなく、広い庭園内を散策できるのだ。

いつの間にか隣の公園!

 「美術館の庭なら当たり前じゃないか」と思われるかもしれない。だがこれは、いつの間にか隣の公共公園に入っているのである。大阪市指定名勝「藤田邸跡公園」だ。名前から想像がつくように、もともとは藤田傳三郎の本邸に作庭された庭園だが、真下を通るJR東西線・大阪城北詰駅の整備をきっかけに、2004年から大阪市の公園となった。

 今回のリニューアル以前には、公園と美術館の敷地境界には、塀が立っており、お互いチラリとは見えても行き来はできなかった。今回、大阪市と協議して、塀を取り払った。今では敷地境界がどこなのか全く分からない。見事な連続感だ。

 対談でこの美術館を訪れたときには、建築の話に終始してしまい、公園側に行ってみなかった。不覚…。この公園、さすが藤田傳三郎の庭園だけに素晴らしい。藤田傳三郎は藤田観光のルーツをつくった人でもある。公園の正門があまりにも重厚な門であるがゆえに、新参者はかえって敷居が高く感じてしまう。

公園入り口の門

 今後は私のように、美術館に来て公園の存在を知り、中に初めて入る人は多いに違いない。逆に、公園に来て、ふらっと美術館に立ち寄る人もいるはずだ。エントランスホールの喫茶は、入館料を払わなくても利用できる。一休みにうってつけだ。

エントランスホールには“あみじま茶屋”と名付けた喫茶カウンターを設置。抹茶と地元和菓子店指導によるだんごのセットを500円で提供。美術館の入場料は1000円、19歳以下無料と、なんか安すぎません?

 まさに「Win-Win」。たかが塀、されど塀、である。

公園は桜が満開!

 近年、Park PFIなど、公園を官民で共同開発する例が増えている。それもいいとは思うのだが、公園の隣地で民間が公園を活用する事例も、もっとあっていいのではないか。この美術館を見て、そう思った。古美術ファン、建築ファンはもちろん、公園に関わる人にも見てほしい美術館である。(宮沢洋)

藤田美術館
所在地:大阪市都島区網島町10番32号
入館料:大人1000円、19歳以下無料